研究課題
骨髄系腫瘍では、遺伝子異常によって腫瘍化する細胞の分化段階が異なり、多彩な病型を呈する。表現型の違いは増殖性や治療反応性に影響するため、治療方法も異なる。したがって、病初期の正しい遺伝子診断が治療成績の向上に非常に重要である。骨髄系腫瘍の研究では網羅的遺伝子変異解析や発現解析が盛んに行われて数多くの知見が得られており、欧米ではクリニカルシークエンスが実装されているが、本邦では臨床実装に至っていない。現在の骨髄系腫瘍の診断は、塗抹標本による形態学的解析、細胞表面抗原検査、染色体検査およびキメラ遺伝子検査が主体であり、遺伝子変異検査はごく一部が行われているに過ぎない。本研究では、診断・治療選択に直結する骨髄系遺伝子変異解析検査法の確立を目指している。遺伝子パネル検査を用いた臨床症例の解析から、必要十分な解析対象遺伝子を絞り込んだ「骨髄系腫瘍診断検査パネル(駒込ミエロイドパネル)」を作成し、正確な診断と適切な治療選択や予後予測が可能となるパネル検査の実装につなげることを目指している。パネルに含まれる遺伝子は、最新の知見や本邦での変異頻度を勘案して改良を行い、2020年9月にはversion 2での解析を開始した。臨床情報として末梢血所見、骨髄所見、染色体所見、細胞表面抗原所見を収集し、データベースを作成して臨床診断と遺伝子診断の比較検討を行っている。院内で臨床検体からDNA/RNAを抽出しNGS解析を行うため、迅速な結果返却が可能である(速報として約1週間、報告書は10~20日)。また検体取得が困難な症例においても、微量サンプル(骨髄塗抹標本、骨髄生検標本の一部、血液クロット等)からの核酸抽出・ライブラリ作成を工夫し、解析が可能となっている。さらに、腫瘍細胞の生物学的動態と検出された遺伝子変異(遺伝子診断)との関連についても解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
これまでにクリニカルシークエンス症例は累計で300件を超えた。毎週5~10サンプルのシークエンスを実施している。他機関では通常行われていない骨髄塗抹標本からの解析については、臨床的に必要性が高く依頼が多いことから、ノイズ除去等の様々な工夫を行って解析システムを構築した。その結果を取り纏め、現在投稿中である。
通常SNPアレイ等により解析される遺伝子の欠失・増幅について、ミエロイドパネルでの検出を実装化する。パネル遺伝子各リード数の相互比較により、染色体からエクソンレベルまでの遺伝子欠失・増幅を検出する。既に正常核型で欠失・増幅のない症例を集積してコントロールとなるコピー数を確定しており、遺伝子一部増幅(PTD)や片アレル欠損・一部エクソン欠失などの病的意義を有する遺伝子異常の同定を可能にした。遺伝子の欠失・増幅を判定する症例を蓄積し(目標:300例)、解析手法を確立する。
(理由)学会出張を予定していたが、社会情勢のため取りやめになった。また、購入を予定していた試薬が期間内に入荷しなかった。(使用計画)新年度の配分額と合算し、全て使用する。
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Bone Marrow Transplantation
巻: 56 ページ: 334~346
10.1038/s41409-020-01016-9
Cancer Research
巻: 80 ページ: 2523~2536
10.1158/0008-5472.CAN-19-3167