研究課題
未曾有の超高齢化社会が進行する中、高齢者の生活機能障害を予防し、自立性を維持することは喫緊の課題である。こうした背景の中、サルコペニア・フレイルの様な新しい疾患概念が提唱されたが、その分子病態については未だ不明点が多く、診断、治療法のコンセンサスは十分に得られていない。病態の発症過程に注目すると、サルコペニア・フレイルは、加齢に伴う生体内恒常性維持のための調節システムの異常が基本にあると考えられる。我々は、サルコペニア・フレイルの新規治療戦略のためには、生体内恒常性制御のメカニズムの包括的な解析を進め、病態の本質を解明することが不可欠であると考えた。我々はこれまで生理活性ペプチド、アドレノメデュリン(AM)と、その受容体活性調節タンパクRAMPによる各臓器の恒常性維持機構に注目してきた。本研究では、各種の骨格筋特異的なAM-RAMP系の遺伝子改変マウスや、サルコペニアモデルマウスなどを応用して、AM-RAMP系の骨格筋の恒常性制御、特に骨格筋ミトコンドリア制御などにおける意義を解明する。さらに低分子化合物などを用いて、AM-RAMP系を人為的に操作することで、サルコペニア・フレイルの治療法開発に展開する。
2: おおむね順調に進展している
はじめにC57BL/6J野生型オスマウスを用い、筋傷害薬カルジオトキシン(CTX)投与後3、7、14 日と経時的に解析を行った。CTX投与により体重に変化はなかったが、前脛骨筋重量/体重比は7日目で最低値となり、14日目でcontrolのレベルまで回復した。AM-RAMP関連遺伝子発現は、CTX投与3日目に上昇したが、その後経時的に低下し、サルコペニアの病態への関与が示唆された。次にRAMP2ヘテロノックアウトマウス(RAMP2+/-)と野生型マウス(Wild-type)に対してCTX投与を行なうと、RAMP2+/-では、炎症の消退遅延、骨格筋の再生遅延が認められた。一方、C57BL/6Jマウスに対してAMを外因性に持続投与すると、骨格筋の炎症や酸化ストレスレベルが抑制され、ミトコンドリア生合成、エネルギー代謝系の亢進が認められた。マウス横紋筋由来筋芽細胞(C2C12)に対するCTX投与実験においても、AMの添加による細胞傷害抑制作用が確認された。筋芽細胞から筋管細胞の分化過程においては、RAMP2遺伝子発現が著明に亢進するのに対し、分化した筋細胞に対するCTX細胞傷害においては、RAMP3遺伝子発現が著明に亢進するという結果が得られた。
骨格筋特異的なRAMP2遺伝子改変モデル作成にあたって、骨格筋特異的にCreリコンビナーゼを発現するMyl1-CreトランスジェニックマウスとRAMP2 floxマウスを交配する。樹立したRAMP2遺伝子改変マウスに対し、後肢のcast immobilization法により、廃用性サルコペニアモデルを作成する。病理標本のラミニン蛍光免疫染色を行い、蛍光顕微鏡BZ-Xと解析アプリケーション・ハイブリッドセルカウントを用いて、筋線維断面積を定量評価する。さらに病理標本を用いて、筋組織の炎症、線維化、毛細血管密度などを評価する。続いて、PI3K-Akt-mTOR系、STARS-MRTF-SRF系などの筋肥大経路、ユビキチン-プロテアソーム経路、オートファジー経路、ミオスタチン経路などの筋萎縮促進経路の変化を検討し、RAMP2による骨格筋細胞の恒常性維持機構を明らかとする。一方、骨格筋は優れた再生能を有しており、その再生には筋衛星細胞(サテライト細胞)が関与している。一方で、筋再生の異常はサルコペニアの発症につながると考えられる。ヘビ毒素であるカルディオトキシン(CTX)は筋線維を選択的に傷害し、再生に必要なサテライト細胞や血管、神経は比較的無傷に保たれるので、筋再生能を評価するのに適している。そこで、RAMP2遺伝子改変マウスの前脛骨筋に対しCTXを注射し、筋損傷を誘発する。1~2週間後に骨格筋を採取し、重量、筋線維断面積を評価する。中心核を有する再生筋線維や、Pax 7免疫染色によりサテライト細胞数を評価する。
骨格筋特異的遺伝子改変マウスの作成が次年度に持ち越されたため。次年度に持ち越した予算は、骨格筋特異的遺伝子改変マウスの樹立と解析に使用予定である。
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