抗菌薬適正使用の実践には、適切な微生物検査の実施や結果の正しい解釈が不可欠である。本研究では、小規模施設を含む複数の医療施設において、各施設内での微生物検査体制の調査とともに、医療者への個別インタビューや後方視的なカルテレビューにより微生物検査に関する思考・判断過程の問題、医療者に求められる知識や必要なコミュニケーション等について、質的な評価・分析を計画した。しかし、研究初年度(2020年度)に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という予期せぬ事態に見舞われ、その対応に各施設の微生物検査担当者・感染管理担当者が追われたほか、本研究の特色であった各医療施設での対面調査や訪問調査も大きく制限された。 その中で岐阜県内の感染防止対策加算算定施設全57施設(2021年時点)を対象に基本調査を実施し、加算を算定する施設であっても中小病院を中心に42%は微生物検査をすべて外部委託しており、院内で実施している施設でも半数以上は休日・夜間には検査を実施しておらず、検体の質管理も不十分であるなどの実態を明らかとした。 また、コロナ禍において地域における感染症診療・微生物検査の状況を把握するため、オンライン技術の活用など県内の診療所を含む医療施設との情報共有・連携体制の整備を進め、県内感染対策向上加算算定施設全64施設(2023年度末時点)および地域医師会に所属する100を超える診療所について抗菌薬の使用状況や微生物検査の実施状況を把握する体制を構築した。 2023年4月にはわが国の新たな薬剤耐性(AMR)アクションプランが示されるなど、ポストコロナにおける最重要課題の1つとして改めて薬剤耐性菌対策の推進が求められている。薬剤耐性菌対策や抗菌薬適正使用は地域社会全体で進める必要がある。COVID-19が落ち着いてきた状況の中で、本研究の結果および構築した体制を活用し、今後も検討を進めていく。
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