研究実績の概要 |
昨年度までの研究で確立した検査法を使用して、実際の甲状腺結節を有する患者に対して穿刺吸引核酸診断を実施した。超音波所見で悪性腫瘍の可能性のある結節、あるいはサイズが大きく、高い確率で近い将来手術を必要とするであろう結節を中心に対象患者を選択した。患者から検査の実施についての同意を文書で取得した。 通常の診療と同様に、22Gの注射針を使用して穿刺吸引細胞診を実施した後、細胞診用の検体を作成した。その際に針の中に残った細胞を低張液に懸濁して赤血球を破砕した後、RNA保存液を加えた。検体は4℃で保存し、2週間以内をめどに腫瘍細胞のRNAをフィルター濾過法にて回収した。確立した方法に従い、TFF3 mRNA/Galecitin-3 mRNAの発現比(T/G比)を定量RT-PCRにて測定した。 80例に対して検査を実施した。細胞診では検体不良が14例(17.5%)、Class II 32例(40%)、Class III 29例(36.3%)、Class IV 2例(2.5%)、Class V 3例(3.8%)であった。核酸診断ではTFF3 mRNA, Galection-3 mRNAの両方のコピー数が100未満のものを検体量不足による不良検体と判断した。不良検体は12例(15%)で細胞診とほぼ同等であった。実施期間が短かかったため、このうち手術が実施されたのは9例にとどまった。病理組織診の結果は、乳頭癌2例、未分化癌1例、濾胞腺腫1例、濾胞腺腫/腺腫様甲状腺腫2例、濾胞癌(微少浸潤型)2例、NIFTP1例である。乳頭癌と未分化癌ではT/G比は全例極端な低値を示した。濾胞腺腫と濾胞癌ではT/G比は様々な値を取り、症例数が少ないため有用性の判断はできなかった。特筆すべきはNIFTPの症例で、細胞診ではClass VであったがT/G比は高く、良性の判定であった。
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