ヘモグロビンA1c(HbA1c)は血糖コントロールの指標として広く用いられているが、赤血球寿命が短縮する溶血性貧血などの様々な疾患や病態で偽低値を示すことが知られている。赤血球内クレアチン(EC)は平均赤血球寿命あるいは造血能の指標として考えられている。申請者らは、ECを指標としてHbA1cへの赤血球寿命の影響を評価した。現在、健診等でHbA1cの検査を行う場合は、院外で採血を行い医療機関に持ち帰り酵素法でHbA1cを測定することが行われている。この院外採血検体を用いて測定したHbA1cは低値傾向を示すことが知られている。この現象を解明するとともにECを用いて平均赤血球寿命の変化を観察した。ECは軽微でも持続的な溶血の検出が可能な指標である。この特性を利用して代償性貧血を合併する糖尿病患者のHbA1cの偽低値を検出した。申請者らは健診等で採血した血液検体が医療施設まで運ばれて測定された値の方が病院外来で採血した血液検体よりもHbA1c値が低値となることを報告した。これは輸送中に生じる溶血が原因ではないかと考えin vitroで実験を行った。冷蔵4℃で軽く浸透し24時間保存した場合、明らかに溶血が起こり、HbA1cは低値を示した。冷蔵保存の場合、補体の活性化等の影響で溶血が亢進する可能性も考えられることから、室温保存の条件でも同様の現象が観察されるか検討したところ、冷蔵保存と同様にHbA1cは低下した。この時のECは何れも24時間保存した方が高値を示した。これらのことから血液検体を24時間保存すると、より脆弱な古い赤血球が破壊され相対的に若い赤血球の比率が増すことが示唆された。
|