Brain-derived neurotrophic factor(BDNF)は身体活動により分泌が増加する。本研究ではその代表的遺伝子多型rs6265および身体活動度と2型糖尿病患者のDPP-4阻害薬への無反応性(ノンレスポンダー、NR)との関連性を研究した。解析は173名全体のものと、BDNF分泌を増強するメトホルミン併用者を除いた99名の解析とを行った。遺伝子多型については66番目のVal→Metのアミノ酸置換の劣性が示唆されたため劣性モデルを仮定し2群に分け、身体活動度は中央値で2群に分け、この組み合わせによる4群について比較した。最終結果はメトホルミン内服者を除外した解析とした。単変量解析ではこの4群の間にNR割合に有意差があり(p=0.037)、多変量解析ではVal/ValまたはVal/Met(Val/*)かつ低身体活動群に比して、Val/*かつ高身体活動群の方がNRは少なかった(オッズ比0.33、P=0.040)。これは、正常なBDNF遺伝子をもつ群であれば、身体活動依存性のBDNF増加が得られるためにDPP-4阻害薬によるGLP-1増加を介するBDNFの耐糖能改善作用が得られやすいためという仮説を提示した。一方Met/Metの群ではNRは高活動群で25%、低活動群で20%と身体活動の影響は明らかでなく、身体活動によるBDNF分泌促進がないためと考えられた。しかし予想に反して、Met/Metの群ではアミノ酸変異によるBDNF分泌障害があると考えられるにもかかわらずNR割合は増加せず、Val*かつ高身体活動群と同様であった。これは、神経活動依存性のBDNF分泌がMet/Metの群で障害されていても恒常的分泌についてはDPP-4阻害薬によるGLP-1濃度上昇により増強され、BDNF分泌は同薬剤投与前よりも改善するためではないかという仮説を提示した。
|