研究課題/領域番号 |
20K07861
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
佐治 直樹 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, もの忘れセンター, 副センター長 (30624910)
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研究分担者 |
山下 智也 神戸大学, 医学部附属病院, 准教授 (90437468)
道川 誠 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40270912)
都築 毅 東北大学, 農学研究科, 准教授 (00404848) [辞退]
室谷 健太 久留米大学, 付置研究所, 准教授 (10626443)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 認知症 / 軽度認知障害 |
研究実績の概要 |
近年、腸内細菌と認知症との関連が注目されている。「腸内細菌」と「認知症」という一見接点のなさそうな組み合わせでありながら、インパクトのある関係から、世界中で研究が展開されている。これまでは見えなかった「新しい臓器」としての腸内細菌の解明が病気の予防につながり、国民の健康生活に貢献しうるため、腸内細菌についての研究を私達も進めている。 もの忘れ外来の患者さんを対象に腸内細菌についての臨床研究を実施してきた結果、①認知症と腸内細菌叢(エンテロタイプ)に有意な関連があった(Saji N, et al. Sci Rep. 2019.)。②軽度認知障害群と認知機能健常群との比較でもエンテロタイプは異なっており、認知症になる前から腸内細菌叢に変化が生じていた(Saji N, et al. Sci Rep. 2019.)。③加齢や動脈硬化を伴う生活習慣病の併存によってもエンテロタイプの割合に違いがあった(Saji N, et al. Hypertens Res. 2019.)。機序は未解明であったため、腸内細菌の代謝産物も解析した結果、④認知症群で、アンモニアなどの有機酸は増加し乳酸値は減少していた(Saji N, et al. Sci Rep. 2020.)。さらに、⑤腸内細菌は大脳白質病変(脳MRIの異常所見)とも独立して関連しており、腸内細菌と脳・認知機能に関する深い関係が判明した(Saji N, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2021.)。 現在は、腸内細菌、細菌代謝産物、認知機能、の関連を包括的に評価し、腸内細菌と認知症について関わるメカニズム解明を目標にしている。また、口腔内細菌(歯周病)と認知機能との関連についても、歯科のグループと連携して研究を展開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸内細菌と認知症との関連については、複数の原著論文を出版し、主な横断調査は完了しつつある。並行して共同研究者らと実施しているサブ研究の解析・進捗も順調である。現在までの研究成果を以下に述べる。①頭部MRI画像(脳小血管病)を解析したところ、大脳白質病変は腸内細菌と独立した強い関係であった(Saji N, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2021.)。また、②食事・栄養と腸内細菌との関係については、魚介類、きのこ、果物、大豆などの食品を多く摂取した群は認知症の有病率が有意に低く、腸内細菌の代謝産物の濃度も低い傾向にあった(Saji N, et al. Nutrition. 2022.)。腸脳相関の機序解明のため、血液中のバイオマーカー解析も実施した。まず、③新規の認知症関連バイオマーカーとして注目されているニューロフィラメントLを測定し認知機能や脳小血管病との興味深い関連を見いだした(Saji N, et al. J Alzheimers Dis. 2022.)。また、④細菌の菌体成分に関連するリポポリサッカライドの血液中濃度を測定して、軽度認知障害との関連を明らかにした(Saji N, et al. J Alzheimers Dis. 2022.)。⑤口腔内細菌については、42例の口腔内検体の細菌叢を次世代シーケンサで解析し、腸内細菌や認知症との関連を調査中である。これまでのサブ研究は横断解析であり、今後は縦断調査のデータをまとめて、論文公表を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
主解析とサブ解析は概ね順調にデータ解析や論文発表できている。2022年度は、主解析として縦断解析を予定し、サブ解析として、以下を予定している。①レビー小体型認知症の患者さんの腸内細菌を解析し、軽度認知障害や認知機能健常群の腸内細菌と比較する。2022年2月までに約20例をデータベースに登録した。2022年4月以降に、腸内細菌の解析を予定している。 今後は横断調査から縦断調査のデータ解析へフェーズを移行する予定である。縦断解析によって、腸内細菌と認知機能に関する因果関係や、そのメカニズムが解明できれば、認知症予防を目標とした介入試験や臨床研究の計画を立案できるかもしれない。
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