研究課題/領域番号 |
20K07862
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅野 直人 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30509550)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / αシヌクレイン / ヒストン修飾 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで有病率が高い神経変性疾患である。パーキンソン病の主となる臨床症状である錐体外路症状(無動、振戦、固縮)に 対してはドパミン補充療法が有効であり、またリハビリテーションや療養環境の充実とあいまった結果、パーキンソン病患者の平均余命は20世紀末にかけ延び続け、現代では一般人口と同一とされる。これは同時にパーキンソン病罹患期間、ならびに治療期間の延長をもたらした。前述のように錐体外路症状に関してはド パミン補充療法が有効であるが、薬剤の特性上ドパミン受容体への刺激はその持続時間やドパミン受容体への刺激プロファイルが必ずしも生理的とはならない。 結果として過剰な刺激は衝動制御障害(impulse control disorder: ICD)を誘発することがあり、その病的賭博や異常性欲といった徴候は患者本人の社会性を 著しく損なうことから、その後の療養環境において多大な悪影響を及ぼすものである。現代における治療期間の延長はそういった加療に伴う問題へ遭遇する機会 を増やしうるものとなっている。α-シヌクレイン (αS)はパーキンソン病の変性過程においてもっとも重要とされるタンパクでる。応募者らは、近年αSのエピ ジェネティクスにおける役割に注目し検討を重ねてきており、直近の研究においてはαSがヒストンのメチル化修飾(H4R3me2s)を介してOPRM1 (Opioid Receptor Mu 1)の転 写調整を行なっている可能性を見出した。OPRM1はパーキンソン病においてドパミン製剤加療中に発現する衝動制御障害の危険因子とされている。 本研究では、 αSがエピジェネティクスを介してOPRM1転写を制御する機構を解明することを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストンH4タンパクの3位アルギニンにおけるジメチル化 (H4R3me2s)は主としてPRMT5 (Protein Arginine Methyltransferase 5)によって付与されることがこれまでの多くの報告によって明らかとなっている。PRMT5の作用を実験系で確認するために、入手可能なPRMT5阻害薬を実験細胞SH-SY5Yに対して暴露した。具体的にはEPZ015666, GSK591, Pemrametostat, CMP5の4種を用い、GSK591がもっとも特異性、効率性が高いことを見出した。続いて、クロマチン免疫沈降へすすむためにヒストン特異的修飾を認識するH4R3me2s(3位のアルギニンがジメチル化されたヒストンH4)抗体に関しEpigentek社およびActive Motif社を塩濃度等の条件を変更した結果、タンパクレベルにおいて抽出効率を改善させることを得た。しかしんがら核酸レベルでは満足のいくものとはならず、続いてヒストン特異的ではないCST社のジメチルアルギニン (Rme2s/SDMT)抗体の可能性を探求した。本抗体はPRMT5阻害薬の系においてもっとも鋭敏に阻害効果を指し示した。本抗体のエピトープを確認する目的において共免疫沈降を行い各種ジメチルヒストン抗体を用い検索を行ったところ、ウェスタンブロットにおいてH3R2me2sやH3R8me2sは検出されなかったなかった一方で、H4R3me2sでは明瞭なバンドがみられた。このことより、本実験系ではH4R3me2s抗体の代わりにSDMT抗体を使用できる可能性が拓かれた。現在、本抗体を用いたクロマチン免疫沈降の条件設定を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
SDMT抗体を用いたクロマチン免疫沈降の条件設定を継続して行い、次世代シーケンサー解析を行う。同時に公共データベースであるGEO datasetにはPRMT5関連のRNA-seqデータが多く登録されており、これらを用い本実験系との相違点についてin silicoの検討も行う。Support Vector Machines (SVM)を用いた機械学習の実験系をすでに確立しており、細胞の実験系がより普遍的なものとも繋がりうることを証明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の進行状況によって購入する抗体の種類が変わり、それが次年度に多く予定されていること、また投稿出版費用に充てる予定があるため。
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