研究課題/領域番号 |
20K07864
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯島 正博 名古屋大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (40437041)
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研究分担者 |
小池 春樹 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (80378174)
勝野 雅央 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (50402566)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 免疫介在性ニューロパチー / 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP) / ニューロフィラメント-L(NF-L) / NOD B7-2 knockout mice / neurofascin-155(NF155) / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
本研究の狙いは免疫介在性ニューロパチーの治療適正化である。神経領域疾患におけるニューロフィラメント-light(NF-L)は軸索障害を反映するマーカーとして期待されるが、本研究では代表的な免疫介在性ニューロパチーであるCIDPにおいて微量なNF-Lを血清から測定することで、侵襲の少ない病態活動性マーカーとしての有用性を検証する。これまでに58例のCIDP患者の病極期ならびに治療後における血清NF-Lを測定し、CIDPの各亜型と正常コントロール例、臨床スコア、神経伝導検査所見、神経生検の病理所見との関連性を解析した。その結果、NF-Lは正常コントロールより有意な増加を示すとともに、mRSスコアと髄液蛋白と正の相関を認めた。またIgG4自己抗体(抗NF155抗体)陽性例は陰性例より高値を示した。神経伝導検査所見では、NF-Lは脛骨神経の複合筋活動電位振幅と負の相関を示し、神経生検の病理所見からは軸索変性に強い相関を示した。 また、本研究のもう一つの課題として、CIDPマウスモデルの免疫担当細胞のpo pulation解析から病態最上流のpopulationを特定し、これらの免疫学的ネットワークの解明を目指している。これまでに発症前より病変部坐骨神経においてCD4陽性T細胞とCD68陽性細胞の出現が確認され、これらは相互にmergeする傾向を示した。その後の病極期付近でCD19陽性B細胞が出現するが、FCM解析からこれらはBregに分類されるpopulationが含まれる可能性が示されている。またCD8陽性T細胞はCD4, CD68陽性細胞とは独立して中期より病変部への浸潤が認められた。これより、病態の初期にはマクロファージもしくはAPCとCD4陽性T細胞が病態の主座を担う可能性が示唆され、その後は他のpopulationによる病勢修飾や病態の移行の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は2つのアプローチにより、CIDPをはじめとする免疫介在性ニューロパチーの病態解明と新規バイオマーカー候補を探索する。1つはCIDP患者血清を用いた超精密ELISA(Simoa system)によりCIDPにおけるNF-Lの変動を鑑別疾患ならびに各亜型間で重症度、神経伝導検査、生検病理所見との相関解析により評価し、疾患活動性・病勢評価としての有用性を検証した。これらはすでに論文(J Neurol. 2021. doi: 10.1007/s00415-021-10537-2., online ahead of print)されたことから、本研究は当初の計画以上に進展している。 また、CIDPモデルマウスを用いた評価についても、当初計画した各病期における病態を構成する免疫populationの解析は完了し、治療的介入試験として生理食塩水をコントロールとして、完全型免疫グロブリン腹腔内投与時における臨床症状や坐骨神経における病理解析、さらに同部位における浸潤免疫細胞のpopulation解析を行いつつあり、こちらも当初の計画以上の進展を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
CIDPにおいて多くの患者血清を有することから、今回の対象であるNF-L以外にCIDPの病勢や臨床像を反映するバイオマーカー探索を行う予定である。人ならびにマウスサンプルにCIDP患者血清を反応させた候補バンドを切り出し、質量解析により候補分子を特定する。すでに複数の候補分子が特定されつつあり、なかでも候補分子XについてはELISAならびにウェスタンブロット法による患者血清との反応性も確認しており、CIDPの特定の亜型におけるあらたな診断的バイオマーカーの可能性と病因としての検証を今後試みる予定である。 CIDPマウスモデルに関しては、完全型グロブリンによる免疫修飾を確認したことから、今後はFcやF(ab')2といった断片化グロブリンを人為的に作製して投与することで、どの断片が免疫修飾能を有するかの検証を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響から動物実験施設への動物搬入が滞ったことから、予定していたCIDPマウスモデルによる解析が当初の予定より匹数を削減して行うこととなったため、試薬消耗品ならびに搬入費用分として次年度使用額が生じたため。これを踏まえて次年度に引き続き使用予定である。
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