研究課題/領域番号 |
20K07870
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山下 賢 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (20457592)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 孤発性封入体筋炎 / 抗cN1A抗体 / 能動免疫 |
研究実績の概要 |
孤発性封入体筋炎(sIBM)は大腿部や手指の筋力低下、嚥下障害が進行し、次第に臥床状態となる難治性筋疾患であるが、免疫療法が無効で、患者QOLの改善が喫緊の課題である。本疾患の根本的病態を解明し、それに基づく治療法開発が不可欠である。本研究の目的は、sIBM患者血清中に存在する抗cN1A抗体に着目し、本抗体の病因的意義を解明し、疾患活動性を評価しうるバイオマーカーを同定し、治療の有効性を検証することである。本研究では、多数例の患者血清、臨床情報を収集し、①抗cN1A抗体陽性症例における臨床病理学的特徴を解明するとともに、②cN1Aペプチド能動免疫モデルを作成しsIBMモデルとしての妥当性を検証する。さらに本モデルに対して③免疫療法と蛋白分解を促進する治療の有効性を検証する。本抗体の病因的意義の解明とバイオマーカーの同定を通して、本疾患の病態解明と治療法開発を行う予定である。2020年度は抗cN1A抗体陽性症例における臨床病理学的特徴を中心に検討を進め、研究に登録された351症例の内、212例がENMC2011のIBM診断基準を満たした。さらに102例が抗NT5C1A抗体陽性、110例が本抗体陰性であった(陽性率48.1%)。本抗体陽性例では、手指屈曲優位の筋力低下、手指屈曲+膝伸展優位の筋力低下、HCV抗体陽性率、ステロイド治療反応性において有意差を認めた。一方、肺活量低下や疾患重症度との関連性は見られなかった。抗NT5C1A抗体は、典型的な筋力低下の分布を示す症例で有意に検出されることから、臨床的特徴を支持する検査所見と考えられる。HCV抗体陽性率およびステロイド治療反応性の相違点から、本抗体陽性例は陰性例と異なる病態が関与する可能性があり、本抗体の病原性に関する解析が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①抗cN1A抗体陽性症例における臨床病理学的特徴の解明に関しては、順調に臨床情報および血清の収集が進み、2021年3月末時点で402例の収集を行なっている。その結果、ENMC2011のIBM診断基準を満たす212例において、本抗体陽性102例、陰性110例の臨床情報を解析し、陽性例で典型的な筋力低下の分布を示すことを見出し、臨床的特徴を支持する診断マーカーとなる可能性を見出している。②cN1Aペプチド能動免疫モデルの作成に関しては、ペプチド接種マウスにおいて体重減少およびトレッドミルテストによる運動機能の低下などの臨床症状に加えて、内在核線維の増加やCD8陽性Tリンパ球の浸潤、筋形質内p62・LC3凝集形成などの筋病理変化を見出し、能動免疫モデルがsIBMの病態を部分的に模倣することを明らかにしている。本研究結果を踏まえて、本モデルに対して③免疫療法と蛋白分解を促進する治療の有効性を検証する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
抗cN1A抗体陽性症例における臨床病理学的特徴の解明に関連して、現在使用している定性的セルベースアッセイ法は陽性および陰性の判定が主観的となり、多検体の検出に労力を要するという欠点がある。今後、セルベースアッセイ法の優位性を生かしながら、イメージングサイトメーターを用いて蛍光強度に基づいたハイスループットの定量的測定系を確立する。もしセルベースアッセイ法の定量化が困難な場合には、ルシフェラーゼ免疫システム(LIPS)法による定量化の可能性についても検討を進める。本抗体の病原性に関して、cN1A抗原特異的リンパ球がsIBMの病態において病原性を発揮する可能性を考慮し、抗原特異的リンパ球が筋毒性や蛋白分解機構への直接的な病原性を有するかを解析することを目的に、リンパ球移入検証を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に計画している、抗原特異的リンパ球の筋毒性や蛋白分解機構への直接的影響を検討するリンパ球移入検証に交付額以上の予算が必要となる見込みから、次年度分に繰り越したため。
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