封入体筋炎(sIBM)は、50歳以上の患者で最も多い炎症性筋疾患であり、本邦でもその患者数は増加傾向にある。本症は遠位および近位筋の緩徐進行性の筋力低下と筋萎縮を特徴とするが、有効な治療法はなく、本質的な病態の理解と疾患モデルの確立は喫緊の課題である。本患者血清中に細胞質5'-ヌクレオチダーゼ1A(cN1A)に対する自己抗体の存在が報告されたが、本抗体の病原性は不明である。本研究では、自己抗体の有無によるsIBM患者の臨床的特徴の違い、およびcN1Aペプチドの能動免疫により自己抗体の病原性について検討した。臨床的にsIBMが疑われた患者血清570検体について、セルベースアッセイ法により抗cN1A抗体の有無を評価し、抗体陽性群と陰性群の間で臨床的特徴を比較した。また、野生型C57BL/6マウスに組換えマウスcN1Aペプチドを能動免疫した場合とコントロールペプチドを接種した場合の臨床病理学的変化を比較した。連続570人の患者のうち、365人がsIBMと診断された。そのうち、201例(55.1%)が抗cN1A抗体陽性であった。抗cN1A抗体陽性患者では、手指屈曲筋力低下の頻度、握力の左右差の絶対値に有意差が認められた。また、ペプチドを接種した全群で内在核を有する筋線維数が増加し、非壊死線維へのCD8陽性T細胞の包囲や侵入、p62やLC3陽性凝集体が認められた。本結果は、抗cN1A抗体がsIBMの臨床特徴の修飾因子であることを示唆した。cN1Aペプチドの能動免疫によりsIBMの臨床病理学的特徴が再現されたことから、本マウスモデルは、sIBMの病態を解明し、新たな治療法開発に有用なツールとなることが期待される。
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