研究課題/領域番号 |
20K07875
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
原 誠 日本大学, 医学部, 准教授 (10817224)
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研究分担者 |
中嶋 秀人 日本大学, 医学部, 教授 (20330095)
大日方 大亮 日本大学, 医学部, 准教授 (20624886)
藤原 恭子 日本大学, 歯学部, 准教授 (40595708)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経細胞表面抗体 / 免疫染色 / 抗体精製 / 初代培養神経細胞 / RNAシークエンス |
研究実績の概要 |
自己免疫性脳炎と診断した患者の髄液と血清に対して、成熟ラット脳凍結組織切片および胎齢18日ラットから摘出した海馬神経細胞の初代培養細胞による神経細胞表面抗体の網羅的検出を行った。2020年度は自施設及び国内の医療機関から集積した脳炎患者から新規に20例の神経抗体陽性例を検出した。特異抗原の診断については、特定の抗原をHEK293細胞表面に強制発現して免疫染色で検出するcell-based assay法により抗NMDA受容体抗体陽性 7例、抗LGI1抗体陽性 3例を確定診断した。 神経細胞表面抗体作用の解析のため、抗NMDA受容体抗体または抗LGI1抗体を含む血清プールを作製し、Protein A/Gカラムを用いてそれぞれのIgG分画を精製した。抗体陰性例の血清についても同様に抗体プールを作製しIgG分画を精製した。 続いて、神経細胞表面抗体群の機能解析および影響を受ける遺伝子群を同定するため、初めに精製したNMDA受容体IgG抗体、LGI1IgG抗体、陰性コントロールIgGを初代培養ラット海馬神経細胞に反応させて、細胞表面の抗原発現の変化を確認した。海馬神経細胞の初代培養はBanker変法に準拠した。Poly-L-Lysineコートしたカバーガラス上に培養した成熟ニューロンに対して、精製した各々のIgGを72時間反応させたのち免疫染色を用いて抗原クラスター数の変化を定量解析した。NMDA受容体IgG抗体反応群では神経細胞表面のNMDA受容体クラスターが有意に減少していた一方で、LGI1IgG抗体反応群ではシナプスにおけるLGI1発現量の変化を認めなかった。 現在、各々の抗体が抗原に及ぼす作用と影響を受ける発現遺伝子群の相違について明らかにするため、抽出したRNAのシークエンスを用いて網羅的な発現遺伝子差異解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では2020年度にRNAシークエンス解析の結果を踏まえて標的候補遺伝子群の抽出までを完了することを予定していた。進捗がやや遅れている原因として、Banker変法による神経細胞の初代培養では神経細胞のほかにグリア細胞も少ない割合ながら共培養されるため、グリア細胞の混入による影響を補正するための手法を模索したためである。グリア細胞混入の影響はグリア細胞に特異的に発現する蛋白量による補正で解決されることが期待され、今後の研究計画を支障なく遂行できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はRNAシークエンス解析の結果から抗体反応で発現変動のある標的候補遺伝子群の抽出を行う予定である。具体的には抗体を反応させた細胞群よりRNAならびにタンパクを抽出し、ウエスタンブロットならびにqRT-PCRを行い実際の発現を定量化することを計画している。Banker変法で培養した初代培養細胞の遺伝子発現の差異を評価する際の課題として、グリア細胞を可能な限り低密度とするように無血清培地を用いて、混入したグリア細胞密度の相違をグリア細胞に特異的に発現する蛋白の発現量で補正することで解決できると考えられる。さらにパスウェイ解析ツールであるDAVIDおよびGSEAによるin-silicoの解析を用いて、神経細胞表面抗体が標的とする細胞応答経路を同定することを計画している。2020年度の研究結果から、NMDA受容体IgG抗体とLGI1IgG抗体では細胞表面の蛋白発現レベルでの相違が確認されており、これら抗体の種類で標的とする細胞応答経路が異なる結果が得られることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者と2名の共同研究者で合計5387円の次年度使用額が生じた理由として、抗体精製と細胞培養関連で用いる試薬が当初の計画より安価で購入できたことによる余剰であり、2021年度に予定している抽出RNAのqRT-PCRに関連した試薬の購入に充当することを計画している。
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