研究課題/領域番号 |
20K07892
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
中島 一郎 東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (50333810)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脱髄疾患 / 多発性硬化症 / 視神経脊髄炎 / 自己抗体 |
研究実績の概要 |
抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)抗体関連疾患(MOG-associated disorders: MOGAD)の疾患概念の更なる確立のために、診断基準の策定および全国疫学調査を実施し疫学的な解析を進めている。一方で、診断に必要なMOG抗体の測定は標準化されておらず、測定機関よって感度や特異度が異なり、偽陽性や偽陰性が生じている。策定した診断基準にはMOG抗体の測定が必須であるが、最も感度が高いCell-based assay法によるMOG抗体測定は煩雑かつコストが高く、検査の普及を妨げており、保険適用に至っていない。本研究は診断マーカーとしてのMOG抗体の新たな検査方法や他のバイオマーカーの探索を主な目的としている。一昨年度は、MOGADの病態を明らかにする目的で病理学的な解析の報告を行った。診断目的に生検された中枢神経病理標本を用いて免疫染色法にて解析した。病理学的にはMSやNMOとは異なる特徴が認められ、小静脈周囲の細胞浸潤はMOGを貪食するマクロファージの他、CD4陽性のT細胞の浸潤が特徴的であった。そのため、CD4陽性T細胞のMOG反応性が病態に重要な役割を果たすことが示唆された。すなわち、MOGADの発症にはT細胞を含むリンパ球の活性化が重要と考えられたため、患者末梢血中のT細胞のMOG蛋白に対する免疫応答を解析した。MOG全長をカバーする14種類のペプチドに対するT細胞の反応を解析し、特定のペプチドに対する強い免疫応答が認められ、そのペプチドがT細胞の重要なエピトープと考えられた。昨年度からこのエピトープの病態への関与を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中枢神経系(CNS)のミエリンペプチドに対するMOGAD患者血液中のT細胞応答を解析した。MOGAD24例、視神経脊髄炎(NMO)20例、および健常対照17例の血液サンプルから、末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。分離したPBMCを、全長のMOGをカバーする14種類のオーバーラップしたMOGペプチドとともに培養した。培養後のCD4+T細胞における、CD69の発現、インターフェロンγや顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などの細胞内サイトカインのレベルをフローサイトメトリーで解析し、MOGに対するT細胞の反応を評価し、T細胞が認識するエピトープの同定を行った。 CD69の発現を利用した活性化アッセイにより、MOG p16-40およびMOG p181-205に対するT細胞応答がMOGAD例において健常対照に比べて有意に強かった。MOG p16-40に対するGM-CSFの産生量は、MOGAD例のT細胞では健常対照のT細胞よりも有意に高く、病原性のあるT細胞エピトープであることが示唆された。 山口大学との共同研究で、MOGADの血清に含まれるGRP78抗体がMOGADの血液脳関門の破綻に関わっていることが明らかとなり、新たなバイオマーカーとしての有用性を検証することとなった。 診断的バイオマーカーと臨床病型の相関を明らかにするため、MOGADの臨床的特徴を報告した。
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今後の研究の推進方策 |
MOGAD例のT細胞応答から示唆されたMOGペプチド(MOGp16-40)の疾患特異性をさらに解析する。また、MOGAD例の血清中あるいは髄液中のIgGがMOGp16-40に結合するかどうかを解析し、このペプチドを用いた新たな診断マーカーの探索を進める。 各種のバイオマーカーが、全国疫学調査により得られた臨床的特徴と関連するかどうかを解析する。
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