研究課題/領域番号 |
20K07906
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
岡本 裕嗣 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (60709658)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミトコンドリア病 / 白質脳症 / 認知症 / 次世代シークエンサー / GDF-15 / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリア病は病態が多様であり、原因不明の症例が数多く存在する。我々はのべ500例のミトコンドリア病疑いの症例について遺伝子解析を行ってきたが、確定診断にいたった症例は約10%にすぎない。また経年的なミトコンドリアDNA異常の蓄積によりはじめて表出する症状もあるため、高齢者におけるミトコンドリア病診断は困難であり、世界的にもまとまった研究はない。我々は高齢者におけるミトコンドリア病は潜在的に存在するものと考えており、中でも原因不明の白質脳症や認知症の中にミトコンドリア病が含まれている可能性をこれまでの検討より得ている。本研究課題の核心は、潜在的に存在する成人・高齢発症ミトコンドリア病の原因遺伝子を明らかにし、白質脳症・認知症に及ぼす影響を明らかにすることである。 研究方法としては、遺伝子診断と疾患マーカーの検索である。遺伝子診断として、次世代シークエンサーを用いてミトコンドリアDNAの全シークエンスと既報告の167の核遺伝子による診断パネルを用いていくつかの成果を得ている。しかし、既報告の遺伝子だけでは、診断効率が上がらないため、検索範囲をさらに拡充して検索を行っている。また、ミトコンドリアに関連しない白質脳症についても、遺伝子パネルを作成して検討をすすめている。一方、診断をする上で重要な疾患マーカーの検索も行っており、生化学マーカーとしての、血清Growth differentiation factor 15 (GDF-15)が高齢者や白質脳症の症例に有用であるかどうかの検討を行ってきた。これまで、のべ100例の症例について血清GDF-15について検討を行い、ミトコンドリア病の確定診断に至った例においては高値をとる傾向を確認し、有用なマーカーであることを再確認した。現在、中枢性のミトコンドリア病における新規の診断マーカーの検索を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シークエンサーによる検討はミトコンドリア病のべ50例において検討できた。ミトコンドリアDNAでの異常を確認できた症例はみとめたが、核遺伝子異常の確実例は数例しかみられなかった。現在検討している原因遺伝子としての核遺伝子は、疾患として報告のあった遺伝子であり、小児期などに発症する重症例などの原因となる遺伝子である。ミトコンドリアを構成する核遺伝子は1500異常あるとされており、現在、検索する遺伝子の数を増やして検索中である。また、白質脳症自体もミトコンドリア以外の原因でも起こりうる疾患である。我々の施設では白質脳症および認知症、脳内小血管病の原因遺伝子の遺伝子パネルを作成し、同時に検索を開始した。 GDF-15については病態、疾病臓器の拡がり、罹病期間によりばらつきがあることが明らかになった。今後さらに症例数を増やす必要がある。また、高齢者に限定した評価も今後必要になってくると思われる。また、今年度は新規の疾患バイオマーカーの探索のために、髄液を用いたメタボローム解析を行った。メタボローム解析の中にはミトコンドリア病と対照群の中で、有意に変化をみせる物質が複数存在することが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子パネルについてはミトコンドリア病については現在の167遺伝子に加えて、さらに検索する核遺伝子を増やして行く予定である。ただ闇雲に検索をしても、時間的にも徒労に終わる可能性があるため、次にのべる、白質脳症遺伝子パネル、GDF-15をはじめとした診断マーカーとの併用をはかり、中枢性ミトコンドリア病と診断効率を上げるストラテジーを確立する。白質脳症診断パネルは既に150例の症例について検索が行われており、ミトコンドリア関連でない、白質脳症の遺伝子診断が行われている。今後、白質脳症・認知症において、まず白質脳症パネルを用いた検索を今後すすめていきたい。 GDF-15測定に関してはさらに症例をふやしていき、各病態におけるカットオフ値を決めていく。また、正常コントロールにおけるGDF-15の検討についても改めて行っていく予定である。また、血清GDF-15だけでなく、白質脳症についての検討でもあるため髄液GDF-15についても検討を追加する予定である。 髄液中のメタボローム解析については、いくつかの候補因子が同定されている。症例数が少ない中での結果であり、今年度はその候補因子の中での絞り込みに時間を注ぎ、より感度と特異度の高い疾患マーカーの探索を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、メタボローム解析に費用を費やし、昨年度の残高も含めて使用した。当該年度において、メタボローム解析の結果についての解釈はまだできておらず。今年度中にメタボローム解析を元にした検査は行えなかった。次年度に解析結果を基にした検査を計画する予定である。
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