研究課題/領域番号 |
20K07918
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
宇田川 潤 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (10284027)
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研究分担者 |
林 雅弘 宮崎大学, 農学部, 教授 (00289646)
岩崎 雄吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (50273214)
内村 康寛 滋賀医科大学, 医学部, 特任准教授 (90803990)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リン脂質 / 合成 / 行動 |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の研究を行った。 1.リン脂質の構造的差異によるラットの行動変化への効果の違いを検討することを目的として、複数のリン脂質を合成した。前年度はsn-1にパルミチン酸を有するリン脂質の合成を行ったが、sn-1の脂肪酸の長さの影響も調べるため、本年度はsn-1にステアリン酸(18:0)を有するリン脂質を合成した。縮合剤をEDCに変更し、リゾホスファチジルコリン(リゾPC)と飽和脂肪酸のアラキジン酸(20:0)、あるいは多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(22:6)を用いて、18:0-20:0 PCおよび18:0-22:6 PCを合成した。また、sn-2にアラキドン酸(20:4)あるいはドコサヘキサエン酸を結合したPCから18:0-20:4および18:0-22:6ホスファチジルエタノールアミンを合成し、種々の構造のリン脂質を収率良く合成することが可能となった。 2.膜リン脂質の種類はシナプス小胞などの膜トラフィッキングに影響を与え、神経伝達物質の放出や再取り込み、局在などに影響を与えると考えられている。以前、我々は妊娠初期の母体の低栄養により仔ラットの前頭前皮質のリン脂質構成が変化し、自発活動量の変化が生じる可能性を示した。そこで、妊娠5.5日から11.5日までの低栄養モデルラットを用い、仔の自発活動量の変化と並行してモノアミン濃度に変化が生じる部位を探索した。上記期間に摂餌量を40%に制限した母獣から産まれた雄ラットでは、自発活動量の変化と共に前頭前皮質のドーパミンや中脳背側部のドーパミンおよびセロトニン濃度の変動がみられた。したがって、前頭前皮質に加えて背側縫線核は、合成高機能リン脂質の標的部位の一つとなりうる可能性が考えられた。 今後は合成した複数のリン脂質の行動に対する機能を調べると共に、炭素13標識リン脂質を用いて、その脳内動態を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で前年度は研究に遅れが生じていたが、2021年度は合成方法と分析方法を見直し、合成リン脂質の収率向上と質量分析装置およびNMRによる同定に成功した。現在ラットに投与できる量の確保のため数種類のリン脂質の大量合成を開始しており、2022年度は当初の予定通り高機能リン脂質の合成と評価、脳内動態の追跡まで行うことが可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.高機能リン脂質を合成を目的として、1)sn-1部位でエステル、エーテルあるいはビニルエーテルを介して脂肪酸を結合したリン脂質、2)sn-2部位にドコサヘキサエン酸やアラキドン酸、それらと炭素数が同じ飽和脂肪酸(ベヘン酸・アラキジン酸)を結合したリン脂質、ならびに3)親水性部位にホスファチジルエタノールアミンあるいはホスファチジルコリンを結合したリン脂質をラットに投与し、それぞれの構造的差異が行動の制御に対し如何に影響を与えるか検討する。 2.プラズマローゲンなどの脳内移行を良好にするために、リポソームの構成成分を再検討する。トランスフェリンやポリエチレングリコールなどをリポソームに組み込んでラットにリン脂質を投与し、リン脂質の脳内取り込み率が高い構成のリポソームを選抜する。 3.炭素13で標識した高機能リン脂質をラットに投与し、行動に対する影響と共に脳内動態を調べ、その標的部位を明らかにする。 以上により行動異常の緩和機能を有する高機能リン脂質の開発を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
複数のリン脂質の合成方法の確立をラットへの投与実験より優先したため、ラットへのリン脂質投与実験を次年度に行うことになり、次年度使用額が生じた。次年度はラットの購入や飼育費、高機能リン脂質の合成、およびリン脂質の脳内動態解析に助成金を使用する計画である。
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