研究課題
2023年度は前年度に引き続き,合成したリン脂質のPC(18:0/20:0),PC(O-16:0/22:6),PC(O-18:0/22:6), PC(O-18:0/20:4),PE(O-16:0/22:6) を含む12種類のリン脂質をリポソームに組み込み,ラットの尾静脈から投与して行動変化を観察した。その結果,PE(18:0/22:6)の作用とは逆にPE(O-16:0/22:6)は探索行動を活発化し,PC(P-18:0/20:4)およびPE(O-16:0/22:6)は抗不安効果,PE(18:0/18:0),PE(18:0/22:6),PC(16:0/22:6),PC(O-16:0/22:6),およびPE(O-16:0/22:6)は社会的相互作用の抑制効果を持つことが明らかとなった。また、蛍光標識ホスファチジルエタノールアミン(ATTO 740 DOPE)を導入したリポソームを投与したマウスの脳切片をin vivoイメージングにより観察したところ,大脳皮質前頭前野・運動野・体性感覚野,視床,扁桃体,海馬,中脳,前交連および脳梁に蛍光が観察された。これらの結果は,(1)sn-1位の結合とsn-2位の脂肪酸の種類が探索行動に、リン脂質の親水性部分とsn-1位のエーテル結合が抗不安効果に、sn-1およびsn-2位の脂肪酸の組合せが社会行動に影響を与えること,さらに(2)リン脂質は情動と関連した脳部位に作用し機能を発揮することを示唆している。前年度までの結果と統合すると,sn-1位の結合やsn-1およびsn-2位の脂肪酸の種類、sn-3位(親水性部分)の分子構造は,単独およびそれらの組合せによって情動を制御できる可能性が示唆された。また,リポソームに組み込まれたリン脂質は脳血液関門を通過し,脳の特定の部位に作用している可能性が示唆された。
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