研究実績の概要 |
「橋本脳症」は、慢性甲状腺炎に伴う自己免疫性精神神経疾患で、免疫治療が奏効する。橋本脳症の中には幻覚・妄想を呈する患者も多く、統合失調症の中に橋本脳症が潜在する可能性がある。本研究では、①抗NAE抗体を用いて統合失調症と診断されている患者から橋本脳症を抽出し、②その臨床的特徴(臨床情報・症候、脳画像MRI、脳還流SPECT)と背景遺伝子多型(免疫関連)を明らかにし、最終的に③診断指針を作成する。 本研究室では、抗NAE抗体を測定した1003例(2018年4月~2021年6月)を追加で解析した。解析した総数2,350例(2016年4月~2021年6月)中から、抗甲状腺抗体陽性で統合失調症様症状を呈した症例を抽出した。その結果、32例の統合失調症様の橋本脳症が抽出された(抗NAE抗体陽性8例)。また、9例でステロイドが投与され、治療の結果が判明した7例中3例に効果が認められた。 一方、福井大学および関連施設でICD-10によって統合失調症と診断された患者10名を新たに追加解析した。合計20名の抗NAE抗体を解析した結果、10名で抗NAE抗体陽性であった。 以上より、橋本脳症の中には統合失調様の患者が潜在し、逆に、統合失調症と診断されている患者の中にも、ステロイドの効果がある橋本脳症が存在することが明らかとなった。 統合失調症の一部には、免疫療法が奏効する橋本脳症が存在する。このことは、根治療法の可能性や、抗精神病薬に抵抗性の患者の治療にも貢献できると考えられる。その結果、患者の社会復帰にもつながり、患者・家族にとって大きな福音となる。
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