次世代タウトレーサーを用いた慢性外傷性脳症におけるタウの伝播・進展様式の解明

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K07935
• 研究機関: 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
• 研究代表者: 高畑 圭輔 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究部, 研究員 (20645311)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: 慢性外傷性脳症 / タウPET / ボクサー脳症 / 内因性カンナビノイド系 / モノアシルグリセロールリパーゼ / 神経炎症

研究実績の概要

(1)頭部外傷におけるタウPET研究：量子科学技術研究開発機構(量研機構)にて、本課題における頭部外傷患者のリクルートは順調に進んでいる。令和4年5月1日時点で、頭部外傷患者44名に対してタウPET、アミロイドPET、MRI検査、神経心理検査を完了した(昨年度より11名増加)。 このうち31名は、反復性軽度頭部外傷患者であり、11名は単発重度頭部外傷患者である。反復性軽度頭部外傷に関しては、主に元ボクサーを中心にリクルートを行っており、これまでに24名の元ボクサーの検査を完了している。反復性軽度頭部外傷患者のうち、11名では2回目のタウPET検査を完了しており(昨年度より8名増加)、タウ病変の縦断的変化に関するデータが得られている。また、健常者については年齢と性別をマッチさせた24名からなるデータセットを確保した。令和４年度はこれらのデータに対して画像解析を行い、慢性外傷性脳症におけるタウ病変の詳細な検討を行う。タウPET画像の解析に関しては、大脳皮質から参照領域を抽出する手法を確立した(Tagai et al., under review)。

(2)内因性カンナビノイド系のPETイメージング技術の開発:内因性カンナビノイドの一つである2-AGの代謝を担う中心的な酵素であるモノアシルグリセロールリパーゼ(MAGL)MAGLを標的としたPET薬18F-T-401について、健常男性を対象とする検討を実施した。18F-T-401が良好な脳移行性と代謝的安定性を有すること、またMAGLに対して可逆的な結合を有することを示し、18F-T-401がPET薬として理想的な性質を有することを明らかにした。本研究は、ヒトのMAGLを生体内で初めて可視化した研究であり、内因性カンナビノイドおよびMAGLを標的とした創薬や、精神神経疾患の病態研究などに活用されうる成果である。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

頭部外傷患者44名に対して、PET撮像、MRI撮像、神経心理検査が完了しており、脳画像解析に十分なデータ収集が完了している。また、タウPETの画像解析法についても、大脳皮質から参照領域を抽出する手法(Tagai et al., under review)の開発に協力した。本研究でもこの手法を採用する予定である。
また、脳内炎症に関与する内因性カンナビノイドの一つである2-AGの代謝を担う中心的な酵素であるモノアシルグリセロールリパーゼ(MAGL)MAGLを生体内で可視化すること可能なPET薬を18F-T-401のヒトでの有効性の検証が完了し、その成果がEur J Nucl Med Mol Imaging誌に掲載された(Takahata et al., Eur J Nucl Med Mol Imaging 2022)。頭部外傷による脳内炎症のイメージングに活用されうる新規画像検査法である。

今後の研究の推進方策

(1)頭部外傷におけるタウPET研究：最終年度である令和４年度は、患者リクルートを希少症例に限定し、これまでに収集したデータに対する解析を進め、論文作成を進める予定である。タウPETの画像解析については、大脳皮質から参照領域を抽出する手法(Tagai et al., under review)を用いて解析を実施する。

(2)反復性軽度頭部外傷における晩期MRI画像所見に関する検討：量研機構には重度頭部外傷、MTBI、脳震盪などのケースの脳画像、臨床情報のデータベースが存在する。これらのデータを対象として、急性期に有意な脳損傷画像所見が得られなかったケースにおいて、外傷から長期間経過後に出現する画像所見を抽出し、高次脳機能障害の症候との関連を検討する。脳震盪の既往歴を有する元コンタクトスポーツ選手と脳震盪の既往歴を有さない健常対象者のT1強調画像、T2強調画像、磁化率強調画像(SWI)、拡散テンソール画像(DTI)のデータを用いて、MTBIの慢性期における脳形態画像所見の抽出を行う。既に予備的な検討を開始しており、乳頭体や脳梁などの一部の脳領域に特徴的な萎縮が出現すること、これらが認知機能障害と関連することを確認している。令和４年度中に論文を投稿し、海外学術誌への掲載を目標とする。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルスの感染状況の拡大により、研究の進行に若干の遅延が発生した。そのため、2021年度に予定していた物品の購入を延期することとなった。また、学会出張も全て延期またはオンライン開催となり、 旅費の支出が減少した。2022年度は、画像解析ソフトウェアの購入、統計ソフトウェアの購入、行列計算ソフトウェアのライセンス更新、学会出張費などへの支出を予定している。

研究成果

• [雑誌論文] First-in-human in vivo imaging and quantification of monoacylglycerol lipase in the brain: a PET study with 18 F-T-401 (2022)
  • 著者名/発表者名: Takahata K, Seki C, Kimura Y, Kubota M, Ichise M, Sano Y, Yamamoto Y, Tagai K, Shimada H, Kitamura S, Matsuoka K, Endo H, Shinotoh H, Kawamura K, Zhang MR, Takado Y, Higuchi M
  • 雑誌名: Eur J Nucl Med Mol Imaging 巻: Online ahead of print. ページ: in printing
  • DOI: 10.1007/s00259-021-05671-y
  • 査読あり
• [雑誌論文] Evaluation of [18F]PI-2620, a second-generation selective tau tracer, for assessing four-repeat tauopathies. (2021)
  • 著者名/発表者名: Tezuka T, Takahata K, Seki M, Tabuchi H, Momota Y, Shiraiwa M, Suzuki N, Morimoto A, Nakahara T, Iwabuchi Y, Miura E, Yamamoto Y, Sano Y, Funaki K, Yamagata B, Ueda R, Yoshizaki T, Mashima K, Shibata M, Oyama M, Okada K, Kubota M, Okita H, Takao M, Jinzaki M, Nakahara J, Mimura M, Ito D
  • 雑誌名: Brain Commun 巻: 3 ページ: fcab190
  • DOI: 10.1093/braincomms/fcab190
  • 査読あり
• [雑誌論文] Dynamic alterations in the central glutamatergic status following food and glucose intake: in vivo multimodal assessments in humans and animal models. (2021)
  • 著者名/発表者名: Kubota M, Kimura Y, Shimojo M, Takado Y, Duarte JM, Takuwa H, Seki C, Shimada H, Shinotoh H, Takahata K, Kitamura S, Moriguchi S, Tagai K, Obata T, Nakahara J, Tomita Y, Tokunaga M, Maeda J, Kawamura K, Zhang MR, Ichise M, Suhara T, Higuchi M.
  • 雑誌名: J Cereb Blood Flow Metab 巻: 41 ページ: 2928-2943
  • DOI: 10.1177/0271678X211004150
  • 査読あり
• [雑誌論文] タウPETが精神科診断にもたらす革新的変化 (2021)
  • 著者名/発表者名: 高畑圭輔
  • 雑誌名: 細胞 巻: 54 ページ: 1346-7557
• [雑誌論文] Pharmacokinetic and pharmacodynamic assessment of histamine H3 receptor occupancy by enerisant: a human PET study with a novel H3 binding ligand, [11C]TASP457. (2021)
  • 著者名/発表者名: Kimura Y, Takahata K, Shimazaki T, Kitamura S, Seki C, Ikoma Y, Ichise M, Kawamura K, Yamada M, Zhang MR, Higuchi M, Nishino I, Suhara T.
  • 雑誌名: Eur J Nucl Med Mol Imaging. 巻: 49 ページ: 1127-1135
  • DOI: 10.1007/s00259-021-05571-1.
  • 査読あり
• [雑誌論文] 頭部外傷による遅発性脳障害 慢性外傷性脳症(CTE)のタウイメージング (2021)
  • 著者名/発表者名: 高畑圭輔
  • 雑誌名: Annual Review神経 巻: 2021 ページ: 227-236
• [学会発表] 慢性外傷性脳症(ボクサー脳症)による遅発性脳障害のタウPET/MRI所見：タウ病変と精神神経症状との関連 (2021)
  • 著者名/発表者名: 高畑圭輔
  • 学会等名: 第43回日本生物学的精神医学会・第51回日本神経精神薬理学会 合同年会
• [学会発表] タウPETがもたらす精神医学の疾患分類における革新的変化 (2021)
  • 著者名/発表者名: 高畑圭輔
  • 学会等名: 第61回日本核医学会学術総会・第41回日本核医学技術学会総会学術大会
  • 招待講演
• [学会発表] 反復性軽度頭部外傷の既往を有するアスリートの視覚性記憶障害と乳頭体萎縮の関係 (2021)
  • 著者名/発表者名: 宮田真里、高畑圭輔
  • 学会等名: 第40回認知症学会
• [学会発表] 高齢発症の双極性障害患者における脳内アミロイド・タウ蓄積、神経心理症状の評価 11C-PiB、18F-PM-PBB3を用いた縦断PET研究 (2021)
  • 著者名/発表者名: 佐野康徳、高畑圭輔
  • 学会等名: 第43回日本生物学的精神医学会・第51回日本神経精神薬理学会 合同年会
• [学会発表] 頭部外傷の長期経過例における糖代謝と認知機能との関連に関する検討 11C-PBB3と18F-FDGを用いたPET研究 (2021)
  • 著者名/発表者名: 小松裕希、高畑圭輔
  • 学会等名: 第43回日本生物学的精神医学会・第51回日本神経精神薬理学会 合同年会
• [学会発表] 22q11.2欠失症候群における線条体外ドーパミンD1およびD2受容体密度に関する検討：11C-SCH23390と11C-FLB457を用いたPET研究 (2021)
  • 著者名/発表者名: 山本保天、高畑圭輔
  • 学会等名: 第43回日本生物学的精神医学会・第51回日本神経精神薬理学会 合同年会