研究課題/領域番号 |
20K07937
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
堀 弘明 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 行動医学研究部, 室長 (10554397)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 概日リズム / 炎症 / Interleukin-6 / Cortisol / ストレス / トラウマ / 幼少期被虐待体験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ストレスやうつ、トラウマに関連した概日リズムの変化を明らかにすることである。 一般人口からリクルートした健常者116名において、質問紙で評価した幼少期被虐待体験、ストレス症状、抑うつ症状と、唾液中cortisol・IL-6濃度の日内変動および唾液中CRP濃度の平均値との関連を検討した。参加者は、普段と同じ活動日連続2日間にわたり、1日あたり5時点、すなわち、起床直後(T1)、起床30分後(T2)、正午付近(11:30-12:30)(T3)、夕方(17:30-18:30)(T4)、就寝前(T5)での唾液サンプリングを行った。唾液cortisol・IL-6・CRP濃度はELISA法によって測定し、解析はすべてT1~T5の各時点について2日間の平均値を用いて行った(CRPはT3・T5の2時点のみでの測定)。 日内変動の解析により、幼少期の情緒的虐待体験がIL-6分泌リズムの平坦化と有意に関連することが見出された。この平坦化の主たる要因は、夜間のIL-6濃度上昇の欠如にあることも明らかになった。Cortisol分泌リズムについては、幼少期被虐待体験との明確な関連は認められなかったものの、特定の時間帯においてIL-6分泌リズムと相関していた。幼少期被虐待体験とCRP濃度の間には有意な関連は見られなかった。 本研究により、幼少期被虐待体験がIL-6の日内変動平坦化に関連することが世界で初めて見出された。この結果は、幼少期逆境体験が生体のストレス応答に関与する免疫システムに長期的な影響を及ぼす可能性について、概日リズムの視点から一つの示唆を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炎症系の概日リズム解析について、仮説を概ね支持する結果が得られ、論文が国際誌に発表されたため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果に基づき、健常者サンプルにおいてIL-6概日リズムの個人差に関与する遺伝子多型の検討や、炎症に関連する他の分子の概日リズムの検討を進める。 また、PTSD患者やうつ病患者のサンプルをさらに蓄積し、cortisol・IL-6の概日リズム解析を行うとともに、ウェアラブル生体センサ(アクチグラフ)を用いて活動-睡眠概日リズムを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
唾液検体での測定について、当初は外注を予定していたが、その後の展開により共同研究機関での実施が可能となり、外注する必要がなくなったことで、測定費用を少なく済ませることができた。 生じた残額は、炎症に関連する他の分子の測定に必要な試薬類の購入等に使用する予定である。
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