本研究の目的は、ストレスやうつ、トラウマに関連した概日リズムの変化を明らかにすることである。視床下部-下垂体-副腎系および免疫炎症系の概日リズムを測定するために、各被験者から、普段と同じ活動日連続2日間にわたり、1日あたり5時点、すなわち、起床直後(T1)、起床30分後(T2)、正午付近(11:30-12:30)(T3)、夕方(17:30-18:30)(T4)、就寝前(T5)での唾液サンプリングを行った。唾液中cortisol・interleukin-6・CRP濃度をELISA法によって測定し、解析はすべてT1~T5の各時点について2日間の平均値を用いて行った(CRP濃度はT3・T5の2時点のみでの測定)。 前年度までの本研究において、幼少期被虐待体験は唾液中interleukin-6濃度の日内変動平坦化に関連することが見出され、子ども時代の持続的なストレスによって免疫システムの概日リズムに持続的変化が生じる可能性に関する新たな示唆が得られた。 この結果を受け、本年度は抑うつ症状に焦点を当て、機能的MRI画像と遺伝子多型を含めた検討を行った。一般人口からリクルートした108名の被験者において、唾液中interleukin-6濃度の日内変動の平坦化は抑うつ症状や扁桃体の情動反応性と関連していること、その平坦化はIL6遺伝子の多型と心理社会的ストレス間の相互作用によって予測されることを見出した。これらの結果は、うつ病の脆弱性についての神経生物学的メカニズムの一端を明らかにし、うつ病の早期発見や予防法の開発につながり得るものと考えられる。
|