研究課題/領域番号 |
20K07943
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 由嘉子 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (60614485)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 周産期 / うつ病 / ソーシャルサポート / 人格傾向 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者らが2004年より実施している前向きコホート研究で収集済みの評価を用いている。本コホートでは、既に1,600名以上の妊産婦から同意を得ており現在も継続して進行中であるが、2020年初春よりcovid-19の影響によりサンプリングを一時休止していた。2021年度は、研究専用サイトを活用してサンプリングを再開し、研究専用サイトを通じて20例の新規同意を得た。加えて、医療従事者による客観的評価として精神科診断面接Structured Clinical Interview for DSMIV-TR (SCID)を実施し、2021年度は、7件の面接を行った。生物学的指標の一つとして、血漿検体の収集を行い10例の新規検体を得た。 研究成果として、2021年度は産後の抑うつ状態との関連が予測される妊娠中の人格傾向およびソーシャルサポートに着目し、産後うつ病ハイリスク群の人格傾向の特徴等を検討した。その結果、Temperament and Character Inventoryで評価される人格・性格のうち、妊娠中の損害回避と自己志向が、産後の抑うつ状態を予測すること、ソーシャルサポートが部分的にその媒介をすることを明らかにした。本結果は、申請者が筆頭著者として国際誌に発表した(Nakamura Y, Takahashi N, Yamauchi A, Morikawa M, Okada T, Ozaki N. Perceived Social Support Partially Mediates the Impact of Temperament and Character on Postpartum Depression. Front Psychiatry. 2022; 12: 816342)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前向きコホート研究のサンプリングは、2020年度は、covid-19の影響により、これまで実施していた対面・集団による研究説明並びに研究同意取得を休止せざるを得ない状況となった。そのため、2020年度はオンラインを活用した妊産婦を対象とした研究の実施を可能にする体制の検討を行い、研究専用サイトの構築の準備を行なった。2021年度にオンラインを活用してサンプリングを再開した。医療従事者による客観的評価として精神科診断面接Structured Clinical Interview for DSMIV-TR (SCID)を実施した。2020年度は8件、2021年度は7件の面接を実施した。生物学的指標の一つである血漿検体は、2020年度はサンプリング休止のため新規検体の収集も休止していた。2021年度は10例の新規検体を得た。 研究成果として、2020年度は収集済みの評価から初産婦は経産婦と比較し妊娠中から不安が高いこと、初産婦が産後の抑うつ状態の高リスク群であることを明らかにした。本結果は、申請者が筆頭著者として国際誌に発表した(Nakamura Y, Okada T, Morikawa M, et al. Perinatal depression and anxiety of primipara is higher than that of multipara in Japanese women. Sci Rep. 2020; 10: 17060)。2021年度は、産後の抑うつ状態との関連が予測される、妊娠中の人格傾向およびソーシャルサポートに着目し、産後うつ病ハイリスク群の人格傾向の特徴等を検討した。本結果は、申請者が筆頭著者として国際誌に発表した(研究実績の概要に記載)。
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今後の研究の推進方策 |
サンプリングを継続して実施し、①妊産婦自身による主観的評価、②医療従事者による客観的評価、③採血データ等から得られる生物学的指標の集積に努める。covid-19の影響によりサンプリングを一時休止していたが、2021年度よりオンラインを活用したサンプリングの再開ができており、2022年度は滞りなくサンプリングが継続できるものと考える。 産後に抑うつ状態を呈する要介入者を選定するツールの開発に向け、2021年度より本コホートで収集済みの評価を活用し、AI解析を用いて産後の抑うつ状態を予測するモデルの構築を行っている。本モデルは、ハイリスク群の抽出を可能にし、介入が必要な群への早期介入を可能にするものである。本結果をまとめた論文の投稿準備中であり、2022年度中に本結果の公表を目指している。 2022年度は、2021年度までに明らかにした妊産婦自身による主観的評価によるハイリスク群の同定、現在投稿準備中のAI解析による予測するモデルの構築に加え、客観的評価、生物学的指標と産後抑うつ状態との関係を明らかにし、要介入者を選定するツール開発を目指す。本研究による要介入者を選定するツールの開発は、適切な介入を可能とし、産後抑うつ状態の早期改善のみならず、児の養育環境や家族関係への好影響も期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
生物学的指標として血漿サンプルの解析を予定しており、2021年度はその経費として、血漿解析費用を計上していたが、血漿サンプルの解析は2022年度に行うことにし、2021年度には行わなかった。本研究では、計画時より①妊産婦自身による主観的評価、②医療従事者による客観的評価、③採血データ等から得られる生物学的指標のうち、解析を進められるものから順次着手する予定としており、解析延期による研究全体への影響は少ない。 解析を延期した理由:本研究を計画・立案した2019年時点では、それまでの研究成果から、産後抑うつ状態の診断バイオマーカーとして血漿中の炎症性サイトカインに着目しその有用性を検証する予定であった。しかし、2019年以降、生体内に含まれる代謝物質を網羅的に分析するメタボローム解析の研究が進み、診断バイオマーカー候補として炎症性サイトカイン以外の物質にも着目することの重要性が高まった。そこで、2021年度は産後抑うつ状態の診断バイオマーカーについての検討し、炎症性サイトカインに加え、メタボローム解析の結果を踏まえて解析候補の再検討を行なった。 次年度使用額は、2022年度に延期した血漿サンプルの解析に使用する予定である。
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