研究課題/領域番号 |
20K07948
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
橋本 恵理 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30301401)
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研究分担者 |
山田 美佐 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, 科研費研究員 (10384182)
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医療人育成センター, 准教授 (40381256)
木川 昌康 札幌医科大学, 医学部, 助教 (50581146) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 精神疾患 / うつ病 / 難治性うつ病モデル / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、難治性うつ病に対する、より有効な治療ストラテジーの確立を目指すものであり、独自に開発した、標準的な抗うつ薬単独投与では改善しない難治性うつ病モデル動物を用いて研究を進めている。このモデル動物では、脳内各領域におけるBDNFや炎症性サイトカインレベルが通常うつ病モデルと異なることが確認されており、本研究のこれまでの成果の一部として、向精神薬投与による共感性機能(他者援助行動)増強効果を認めている。 今年度はこの効果発現に関して、オキシトシンの関与に着目して脳内オキシトシンニューロンへの影響を検討した。オキシトシンを含む視床下部ホルモンは、視床下部-下垂体系のホルモン分泌調整において重要な役割を持つ視床下部正中隆起部に集積し、抗オキシトシン抗体を用いた染色によって視床下部室傍核から正中隆起へのオキシトシンの軸索内輸送が観察される。前述の行動実験終了後のモデル動物の脳を用いて検討したところ、向精神薬投与群では、視床下部室傍核-正中隆起間に投射しているオキシトシンニュートンにおけるオキシトシン発現の増大が認められた。さらに、関連する免疫系制御因子の検討を進め、前述の行動実験後の血清サンプルを用いて日中の血清中メラトニン濃度を測定した。難治性うつ病モデル群では対照群と比して血清中メラトニン濃度は有意に高く、向精神薬投与によって有意な減少を認めた。メラトニンは免疫緩衝作用を有していることが知られており、例えば急性炎症反応等で免疫活動が亢進している状態においては免疫を抑制する方向に働くことが知られている。よって、今回の難治性うつ病モデルにおける結果は、同モデルにおける炎症・免疫系の変動を示していることが考えられる。また、行動薬理学的評価において共感性機能増強効果が認められた向精神薬投与がその変化を是正する結果を示したことも合わせ、大変興味深い知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年の神経栄養メカニズムと脳内炎症・免疫応答理論の発展を踏まえた検討から、うつ病の難治化には神経新生や脳内炎症・免疫系の制御不全の関与が大きいと考えられる。よって、これまでに進めてきた、神経幹細胞の活性化等を介した脳神経回路網の再構築に関する研究成果を基に、胎生期アルコール曝露とコルチコステロン投与を組み合わせる方法で独自に胎生期/若年期二重ストレス誘発難治性うつ病モデル動物を作製し、本研究を進めている。今回、この難治性うつ病モデルラットへの向精神薬投与によって認められる共感性機能(他者援助行動)増強効果に、脳内オキシトシンニュートンにおけるオキシトシン発現の増大が関与していることが示唆された。さらに、血清中メラトニン濃度の変動も認められ、同モデルにおける炎症・免疫系の変動にメラトニンの免疫緩衝作用が影響していることが示唆された。これらのことは、難治性うつ病への新たな治療的アプローチを検討する上で大変興味深い結果であり、今後の研究の展開に有用な知見である。よって、本研究の進捗状況としては、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果として、難治性うつ病モデル動物を用いた検討において、共感性(他者援助)行動増強効果発現と関連してオキシトシン発現の増大が認められたこと、さらに、関連する免疫系制御因子としてメラトニンの免疫緩衝作用の関与が示唆されたことは、難治性うつ病の病態理解および新たな治療ストラテジーを検討する上で非常に重要な知見と考えられる。よって今後は、これらの研究成果をもとに、共感性等の社会性機能に関連する脳機能変化に影響し、治療反応性に関与している分子病態メカニズムに関する検証を進めていくことが有用と考えられる。本モデル動物を用いた行動薬理学的解析において、雄ラット群および雌ラット群間の比較にも取り組んでおり、社会認知・共感性行動変化に結びつく脳神経回路変異の解析を進めていく。社会的認知や情動的共感などを含む社会性機能障害は、いわゆる向社会的行動の動機付けや実行の困難さと結びついていることが考えられ、有用な制御因子の抽出につなげていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)今年度の研究において非常に興味深い知見が得られたため、より精緻な解析を目指して追加実験を行うこととし、一部を次年度使用額へ回すこととした。 (計画)上記の理由で、今後の研究遂行に不可欠な関連分子変動解析に用いる試薬類の購入や学会発表等に充てることを計画している。
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