研究課題
これまでに神経新生の促進などを介した脳神経回路網の再編成を図る研究に取り組んできた中で、難治性うつ病モデル動物の作製に成功し、抗うつ薬単独投与では改善しない行動異常に対して「抗うつ薬+神経幹細胞移植」が奏功することを示してきた。近年の神経栄養メカニズムと脳内炎症・免疫応答理論の発展を踏まえた検討から、うつ病の難治化には神経新生や脳内炎症・免疫系の制御不全の関与が大きいと考えられる。そこで、本研究ではこのモデル動物を用いて、認知・行動異常を改善させる脳内メカニズムについての検討を行った。これまでの研究成果を踏まえ、令和5年度は本モデル動物で認められる共感性行動の減少に対する薬物投与と骨髄間葉系幹細胞(MSC)投与の効果について更に検討を進めた。難治性うつ病モデルでは、拘束個体への接触時間および救助行動で示される共感性行動が約40%に減少した。これに対し、オキシトシンニューロンの機能障害を改善するoxytocinergic neuron activatorとして機能すると考えられる治療薬候補物質の投与により、共感性行動が有意に改善された。MSCとの併用投与でも共感性行動の有意な改善が認められた。一方、MSCの単独投与群ではこうした効果は認められなかったことから、共感性機能増強効果にはオキシトシンニューロンの活性化が重要であることが示唆された。オキシトシンは海馬の歯状回門、顆粒層の神経細胞に最も強く結合していることが報告されているが、海馬歯状回門の神経細胞はその多くがGABAergic interneuronであることが示されており、室傍核から伸びる神経軸索末端から放出されるオキシトシンのターゲットとしての海馬とGABAergic interneuron関与の重要性が考えられる。今後この点の解析を更に進めることで新たな治療ターゲットの抽出につながることが期待される。
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Journal of Psychiatric Research
巻: 164 ページ: 209~220
10.1016/j.jpsychires.2023.06.014