研究課題/領域番号 |
20K07949
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
紀本 創兵 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (00405391)
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研究分担者 |
橋本 隆紀 金沢大学, 医学系, 准教授 (40249959)
山室 和彦 奈良県立医科大学, 医学部, 学内講師 (60526721)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視空間作業記憶 / 認知機能障害 / 統合失調症 / 死後脳解析 / 樹状突起スパイン |
研究実績の概要 |
昨年度は、興奮性と抑制性神経の細胞活動に必要なATPの産生系であるミトコンドリアの酸化的リン酸化(OXPHOS)反応に関与する遺伝子に着目し、死後脳組織を用いて遺伝子発現解析を行なった。このOXPHOS反応は、興奮性神経の樹状突起スパインの形成や動態に関与していることから、樹状突起スパインの細胞骨格の要素となるアクチン関連遺伝子に着目し、統合失調症の死後脳研究でその発現の変化が報告されているCDC42, BAIAP2, ARPC3, ARPC4の4遺伝子に着目して検討を行なった。実際に前頭前野灰白質を用いたRNAseqのデータに基づく解析においては、前年度に調べたOXPHOS関連遺伝子(NDUFB3、COX4i1、COX7B、ATP5H)と今回検討するアクチン関連遺伝子(CDC42, BAIAP2, ARPC3, ARPC4)の発現量は、健常および統合失調症の前頭前野において相互に有意な相関が認められた。このことは、ヒト前頭前野においても、樹状突起スパインの動態にOXPHOS反応が相互に関与していることが明らかとなった。さらに、健常対照例と統合失調症例(各20名)から、視空間情報の作業記憶のネットワークを構成する脳領域(背外側前頭前野、後部頭頂野・二次視覚野、一次視覚野)において、死後脳切片よりRNAを抽出し、real-time PCR法を用いて、上記4つのアクチン関連遺伝子の発現パターンを健常対照例で検討し、さらに健常対照例と統合失調症例の発現パターンに違いがあるかを比較した。その結果、アクチン関連遺伝子は大脳皮質間で発現パターンが異なり、このパターンが統合失調症とも異なることがわかった。OXPHOS関連遺伝子の発現と樹状突起スパインのアクチン関連遺伝子の視空間作業記憶回路での健常での発現パターン、そして統合失調症での空間的発現パターンの変化を同定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究成果も含めてまとめると、統合失調症では、OXPHOS関連遺伝子の発現と樹状突起スパインのアクチン関連遺伝子の視空間作業記憶回路での空間的発現パターンの変化していることを同定することができた。健常との両遺伝子群の空間的発現パターンの変化の違いが、視空間作業記憶、すなわち統合失調症の認知機能障害の病態基盤になっている可能性が示唆され、この発見を英文雑誌に報告することができた(Neuropsychopharmacology誌)。 一方で、この二つの機能別の遺伝子群の関連(相関)の強さは、前頭前野のみで保持されている結果となり、このことが今後の検討課題となった。一方で、申請者の所属(研究室)に変更が生じ、実験が円滑に行なえなかった部分が存在した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、統合失調症の視空間作業記憶を構成する大脳皮質回路において、OXPHOS関連遺伝子の発現と樹状突起スパインのアクチン関連遺伝子の発現や機能を調節しうる遺伝子に着目し発現パターンを解析し、空間的発現パターンの違いを層・細胞レベルで検討する。さらには因果関係の検証についてin vitroでの実験系を立ち上げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
大脳皮質層あるいは細胞レベルの変化について、in situ hybridization (ISH)あるいはlaser Microdissection(LMD)を用いて、条件検討や実験を行なう予定であったが、脳組織の切片作成を現地に出向いて行なうことができず、空輸もできなかった。また本研究の代表者が研究室を異動したことにより、研究の立上げ・準備等に時間を要することになった。これにより、実験の一部に遅れが生じており、順次研究を再開していく予定である。
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