研究実績の概要 |
当該年度は、昨年度に続き大脳皮質の神経細胞の活動に必要なATPの産生系であるミトコンドリアの酸化的リン酸化(OXPHOS)反応に関与する遺伝子と、興奮性神経の樹状突起スパインの形成や動態に関与しているアクチン関連遺伝子に着目し、死後脳組織を用いて細胞レベルでの遺伝子発現解析を行なった。前頭前野全灰白質の解析同様に、OXPHOS関連遺伝子(NDUFB3、COX4i1、COX7B、ATP5H)と、アクチン関連遺伝子(CDC42, BAIAP2, ARPC3, ARPC4)の発現量について、健常および統合失調症の年齢と性別をマッチさせた36ペアからなる前頭前野脳組織を用いて、細胞レベルでの変化の有無を検討した。 作業記憶障害に特に関与が強いとされている前頭前皮質第3層より、レーザーマイクロダイセクションを用いて切り出された興奮性の錐体ニューロンより、マイクロアレイを行ったデータを用いて各遺伝子の発現量について比較検討を行なった。 その結果、大脳皮質の細胞レベルの解析においても、上記4OXPHOS関連遺伝子と4アクチン関連遺伝子の発現量は、皮質全体の変化と同程度に統合失調症患者において変化していることが明らかとなった。また4OXPHOS関連遺伝子と4アクチン関連遺伝子の発現量の相関は、前頭前野灰白質全体で認めた相関と同程度であり、前頭前野における上記遺伝子は、細胞レベル(興奮性の錐体ニューロン)においても発現量が密接に関連していることが明らかになった。 次にミトコンドリアの内膜に存在する膜貫通型タンパクで、ミトコンドリアの機能を調節し、さらにスパイン形成に重要な役割を果たすことがわかっているTMEM59に着目して解析した。TMEM59は統合失調症の前頭前野においては有意な低下を示し、さらにTMEM59はOXPHOS関連遺伝子と4アクチン関連遺伝子と有意な相関を示した。結果として、TMEM59が統合失調症の病態基盤で重要な分子である可能性を明らかにした。
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