研究課題/領域番号 |
20K07951
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
松尾 香弥子 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 客員研究員 (70399509)
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研究分担者 |
楫 靖 獨協医科大学, 医学部, 非常勤講師 (10273947) [辞退]
下田 和孝 獨協医科大学, 医学部, 教授 (30196555) [辞退]
秋山 一文 岡山大学, 医学部, 客員研究員 (40150990)
古郡 規雄 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (20333734) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 言語側性化 / 神経画像 / 神経伝達 / fMRI / 拡散強調画像 / 構造画像 / 言語側性化指標 / 速度 |
研究実績の概要 |
目的(当初):本研究では「精神疾患等の患者はなぜ大脳の両半球で言語を処理するのか」について、MRIを高度に応用して、「疾患のために神経伝達の『速度』が遅くなり、優位半球への情報伝達が遅れるのを補償するために、非優位半球も活動する仕組みがある」という仮説をたて、統合失調症・双極性障害、うつ病、健常統制群を比較・検証することを目的とした。拡散強調画像法で神経線維の指標を、構造画像でミエリン化を評価し、それらの指標がfMRIで計測する側性化指標とどのように連動しているか調べる。 経緯:令和2年度開始当初より新型コロナウィルス感染症拡大防止のためMRI計測は実施できないまま、研究代表者は施設を異動した。そこで、本研究以前に行われていた健常ボランティアによるMRI計測データを使用して、本研究の主題に関連のある論文公刊を進めていくことに注力した。 成果:以前開発した言語側性化指標AveLIとは別のアルゴリズムによる新しい言語側性化指標HomotopicLIを開発し、論文を公刊した(Laterality誌)。HomotopicLIは課題間の一致度はAveLIほど優れてはいないが、非優位半球に弱く広がる脳活動を捉えることができるという特性をもっていることがわかった。非優位半球に残存する機能を反映している可能性が考えられ、臨床的計測ツールとして貢献できる可能性がある。また、AveLIやHomotopicLIの検証に使用している統計方法(ケンドールの一致係数)を課題間の比較に応用し、安定した側性化指標を計測できる言語課題を調べる方法論について論じる論文を公刊した(Symmetry誌)。前方言語野は動詞生成課題、後方言語野は朗読聴取課題で優れるという、脳部位による差異があることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語課題選択の方法論の論文公刊:言語側性化を調べる際にどのような課題を使用するべきかは特に関心のもたれるテーマのひとつであるが、現状では必ずしもその理論的背景は明確ではない。本年度、これに関する論文を執筆し、Symmetry誌の特集号(Neuroscience, Neurophysiology and Asymmetry)に受理された。本研究ではこれまでに開発してきた側性化指標(-1から1までの範囲で、左優位であるほど1に、右優位であるほど-1に近くなる)の検証において使用したケンドールの一致係数(W)を応用し、「さまざまな計算法において一致した指標値を算出させる言語課題は安定していて望ましい」という考えのもと、これまでに使用してきた4つの課題(朗読聴取課題、動詞生成課題、単語判断聴覚提示、同視覚提示)において、いずれの課題が被験者間で最も指標値の一致度が高いかを調べた。その結果、脳部位ごとに違いが見いだされ、ブローカ野を反映していると考えられる下前頭回の部位では動詞生成課題で一致度が高く、ウェルニッケ野を反映していると考えられる側頭葉と頭頂葉の結合部位では朗読聴取課題で一致度が高かった。また、側性化指標の一致度が高いことと側性化指標値が左優位(や右優位などの当人の側性化)を示しやすいかは別であるが、それらの課題ではそれぞれの該当部位において、側性化も強く検出することが判明した。以上より、さまざまな側性化指標値の一致度を調べることで課題の有効性を検討することの妥当性が示され、また脳部位ごとに適切な課題が異なることが示された。 総合評価:新型コロナウィルス感染症の影響によりデータ計測が実施できなかったが、既存データを活用して論文を公刊し、ユニークな議論を展開することができた点は「怪我の功名」であったと考えている。このため「おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
期間延長:本科研費課題の中心テーマである「神経伝達の『速度』が言語側性化に関連するか」(「速度仮説」)についての論文が執筆途中であり、期間を延長して完成・公刊していきたい。 研究代表者の異動:研究代表者は電気通信大学から愛知東邦大学に異動した。今後は上記「速度仮説」の論文を完成させる他、可能な限り既存データを活用してさらに論文を執筆していきたいと考えている。 次の課題の提案:言語側性化の仕組みについて、「速度仮説」以外の仮説ももっており、今後、それに関する新たな研究計画を立案していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のため実験を実施できず、既存データを使用した研究を行ったため、実験に関連する費用が用いられなかったこと、および、国際学会のリアル参加を控えたことが主な理由である。
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