研究課題/領域番号 |
20K07959
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
柏木 宏子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 病院 第二精神診療部, 医長 (90599705)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 暴力 / 記憶 / 視覚性記憶 / 労働時間 / 社会機能 / 自己超越性人格 / 興奮 |
研究実績の概要 |
大部分の統合失調症罹患者は暴力行為を伴わないものの、統合失調症罹患者における暴力の発生率は、一般人口と比較すると有意に高いことが報告されており、一部に暴力と関連する一群が存在することが分かっている。暴力は、家族や地域支援者に疲弊や不安を生じさせ、スティグマにつながることで、当事者の社会復帰へマイナスの影響を与える。統合失調症罹患者が暴力行為に至るメカニズムを解明し、根拠に基づいた処遇と有効な治療法の開発につなげることが重要である.当研究では、これまで、既存のデータ(Human brain phenotype consortiumのデータ)を用いて、暴力の既往のある統合失調症群(VSZ:112例)と暴力の既往のない統合失調症群(NVSZ:243例)、健常者群1265例の神経心理学的特徴、社会機能、パーソナリティを比較し、暴力の既往のある統合失調症軍の特徴を明らかにしてきた。この結果、VSZ群は、NVSZ群と比較して、PANSSのfive factor modelの興奮(興奮+敵意+非協調性+衝動性の調節障害)が高く(P=1.6×10-4, Cohen’s d=0.46)、視覚性記憶が低く(P=1.9×10-5, Cohen’s d=0.33)、自己超越性の高い人格傾向(P=1.8×10-4, Cohen’s d=0.44)があり、週当たりの労働時間(雇用、家事、就学を含む)が短い(P=4.8×10-4, Cohen’s d=0.58)といった特徴が明らかとなった。第42回日本生物学的精神医学会年会にて報告し、現在海外誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19感染拡大に伴い、入院患者の外出制限やスタッフの病棟間の移動制限があったことから、新たなデータを採取ができていない。このため、既存のデータを使用し、解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
暴力の既往のある統合失調症罹患者の脳構造画像に関する研究の報告は近年積み重ねられてきている。脳体積に関しては比較的研究が多く、海馬や前頭葉(特に眼窩前頭皮質と前部帯状皮質)の萎縮が報告されているが、これまでの研究は規模が比較的小さく、アルコールや薬物の影響が統制されていない研究も多く、結果は一貫していない。また、暴力の既往のある統合失調症罹患者の大脳皮質厚・表面積を調べた研究はほとんどない。本研究では、脳体積の比較に加えて、これまでに報告の少ない大脳皮質厚および表面積を求める。その他の脳画像研究については、暴力の既往のある統合失調症罹患者の拡散テンソル画像の報告は少なく、規模も小規模である。また、脳機能画像については、脳体積の研究と同様に比較的多くみられ、前頭領域や扁桃体と暴力との関連が報告されているが、脳体積の研究と同様に小規模な研究が多く、結果は一貫していない。今後は、同じデータセットを利用して、統合失調症罹患者の暴力の既往と拡散テンソル画像および安静時機能画像との関連を検証していく。これらにより、統合失調症に伴った暴力の神経基盤を明らかにすることによって、暴力発生のメカニズムの理解を深めることに貢献できるものと考えている。また、近年統合失調症の診断補助としての可能性が注目されており、衝動性や社会機能との関連も報告されている眼球運動についても、暴力行為との関連については過去に報告がないため、探索的に解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大の影響で、新たにデータをを採取しておらず、謝礼金や画像の撮像費の支出がなかった。既存のデータの解析は研究環境が整った研究所で実施できた。2021年度は、準備が整えば、新たにデータを採取する予定であり、謝礼金や撮像費が生じる。また、データ入力のための人件費、データ解析用のパソコンや解析ソフトが必要となる。
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