研究課題
当研究では、これまで、Human brain phenotype consortiumのデータを用いて、暴力の既往のある統合失調症群(VSZ:112例)と暴力の既往のない統合失調症群(NVSZ:243例)、健常者群1265例の、知的機能、認知機能(記憶機能、実行機能、注意機能、言語学習、処理速度、社会認知)、臨床変数、人格特性、社会機能、生活の質(QOL) を比較した。この結果、VSZ群は、NVSZ群と比較して、過去の入院期間が長く、PANSSのfive factor modelの興奮(興奮+敵意+非協調性+衝動性の調節障害)が高く、視覚性記憶が低く、TCI (Temperament and Character Inventory)で評価した自己超越性の人格傾向が強く、週当たりの労働時間(雇用、家事、就学を含む)が短いといった特徴があることを見出し、この結果をJournal of Psychiatric Researchに出版した。また、同じデータセットを用いて、暴力の既往のある統合失調症群(VSZ:72例)、暴力の既往のない統合失調症群(NVSZ:187例)を抽出し、大脳皮質厚・表面積、大脳皮質・皮質下体積を比較した。T1強調核磁気共鳴画像を得て、FreeSurferを用いて大脳皮質厚・表面積、大脳皮質・皮質下体積を算出した。1つの1.5 tesla、 2つの3 tesla MRI scannerで実施し、3コホートの群間差のCohen’s dを算出してメタ解析を行った。この結果、大脳皮質・皮質下体積、大脳皮質厚・表面積にVSZ群、NVSZ群間で明らかな有意差はみられなかった。本研究は単独の研究としては過去最大規模の対象数であり、物質乱用歴のあるものを除外していることから、今回得られた研究結果は重要であると考える。第43回生物学的精神医学会年会にて報告した。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染拡大にともない、医療観察法病棟に入院している対象者の外出や訪問者との接触が制限されていることから、入院対象者の画像検査や認知機能の検査などは進んでいない。このため、既存のデータ(Human brain phenotype consortium)を用いて、統合失調症における暴力の既往のある群とない群との比較の解析を進めている。新型コロナウイルス感染症の状況によっては、医療観察法病棟に入院している対象者のリクルートを開始する予定である。
今回得られた我々の脳構造画像の研究結果と、過去の研究報告をあわせて、メタ解析を行い、統合失調症に伴う暴力の生物学的基盤を脳構造画像から明らかにしていく予定である。Human brain phenotype consortiumを用いて、眼球運動と暴力との関連について探索的研究を行う。医療観察法対象行為のように、妄想下において殺人などを意図した暴力と、一般精神科で入退院を繰り返すケースに見られるような、興奮状態で衝動的に行われる比較的軽微な暴力では、そのメカニズムや神経基盤が異なることが想定されるため、さらに対象を重大な暴力行為の既往のある統合失調症群(医療観察法群)にも広げて、研究を続ける予定である。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、既存のデータを用いた研究解析を主に行ったため。医療観察法対象者への検査等を実施できる状況になった場合には速やかに研究を再開する。
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Journal of Psychiatric Research
巻: 147 ページ: 50~58
10.1016/j.jpsychires.2022.01.012