研究課題/領域番号 |
20K07960
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大橋 一徳 日本大学, 歯学部, 助教 (90617458)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | うつ病 / マウス / 光学イメージング |
研究実績の概要 |
あらゆる疾患モデルにおいて病態の生物学的基盤の再現は不可欠である。現行のうつモデルマウスは行動の表面妥当性は有するが、疾患に対する構成的妥当性が満たされていない。本研究の目的は、不完全なうつモデルマウスに構成的妥当性を付与し、この状況を解消することである。目的達成のため、うつ病患者において前頭葉25野の過活動が観察され、この活動の抑制と並行してうつ症状が改善されるという最近の臨床知見と、ヒトマウス脳の相同関係を利用する。具体的には、うつ病患者特異的な脳活動がうつモデルマウスの相同脳領域において存在することを光学イメージングで示し、その神経活動を人為的に操作することで、うつ様行動が改善されることを実証する。 今年度はヒトうつ病のバイオマーカー候補である前頭葉25野の過活動がうつモデルマウスの相同脳領域である下辺縁皮質(IL)においても存在するかを検証した。まず、マウスにストレス性うつを発症させるため1日6時間の拘束ストレスを21日間行い、うつ発症の有無を強制水泳の無動時間、副腎、胸腺の重量によって評価した。その結果、拘束経験マウスは有意に強制水泳時の無動時間が増加させ、副腎の肥大、胸腺の萎縮を示したことから、慢性拘束ストレスによりストレス性のうつを発症させることができることが分かった。次に、脳活動へのストレス性うつの影響を調べるため、ストレス経験前後のmPFC自発神経活動を光学プリズムを通してイメージングしたところ、マウスILはストレス後、有意に高い神経活動を示すことが明らかとなった。一方、前帯状皮質(AC)および前辺縁皮質(PL)ではストレス前後で違いは検出されなかった。これらの計測結果はヒトうつ病患者とストレス性うつモデルマウスの前頭葉神経活動に対応関係があることを示唆していると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究結果により本研究の学術的問いである「マウスのうつ様行動はヒトうつ病と同じ神経活動基盤を持つか」に対する部分的な回答を得ることができた。すなわち、うつ病のバイオマーカー候補である前頭葉膝下前部帯状回(25野)の過活動に相当する神経活動がうつモデルマウスの相同脳領域である内側前頭前野(mPFC)下辺縁皮質(IL)に存在することを実験的に示すことができた。この結果はヒトマウス脳の相同関係を利用して、うつモデルマウスにおいてヒトと共通のうつ病態基盤が存在することを示す本研究の目的を達成するものである。それゆえ、順調に計画が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
うつモデルマウスにおいてヒトと共通のうつ病態基盤が存在する可能性を本研究で示すことができた。次年度はストレスによって変化したmPFC神経活動を電気刺激によって人為的に抑制しうつ状態が解消するかどうかをイメージングと行動実験から検証する。この方法はヒト25野の抑制に用いられる脳深部電気刺激の模倣であり、この課題の達成は、ヒト臨床結果をマウスで全て再現できたことを意味し、うつモデルマウスにおいてヒトと共通のうつ病態基盤が存在することを示唆する実験的根拠となる。
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