研究課題/領域番号 |
20K07961
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊藤 侯輝 北海道大学, 大学病院, 講師 (40455663)
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研究分担者 |
石川 修平 北海道大学, 大学病院, 助教 (30880091)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 精神刺激薬モデル / 炎症 / リポポリサッカライド / マイクログリア / メタンフェタミン / TLR4 / 行動感作 |
研究実績の概要 |
統合失調症患者の末梢血で免疫・炎症因子異常がみられること、脳内細胞の一つであるマイクログリアが過活性になっていることが報告されているが、そのメカニズムは明らかになっていない。そこで、本研究では、統合失調症の精神刺激薬モデルを用いて、脳内の免疫・炎症因子にはどのような異常が起きているのか、さらにマイクログリアの活性が生じているのか、末梢血の免疫・炎症因子にはどのような変化が生じているのかを検証するため検討を行った。初年度は先述のモデル動物の作成と炎症反応の評価を行った。精神刺激薬モデルの作成は2.5 mg/kg のmethamphetamine (METH)を隔日で1日1回、合計5回反復投与し、7日間の休薬期間を設けることで作成した。作成されたモデル動物の末梢血および脳内の炎症性サイトカイン(TNF-αなど)のmRNAあるいはタンパク質の発現量を測定したところ、非モデル動物と比較して、有意な変化は認められなかった。またマイクログリアの活性化に関しても有意は変化が認められなかった。さらに1 mg/kg あるいは3 mg/kgのMETHを5日間連日反復投与後、7日間の休薬期間を設けることで作成した動物モデルにおいても、炎症反応の変化は認められなかった。そこで実臨床で認められる統合失調症患者の炎症異常を反映したモデルを作成するため、微量のリポポリサッカライド(LPS)で炎症を惹起させた状態で、モデル動物の行動評価を行ったところ、統合失調症の陽性症状様の行動応答である行動感作が炎症存在下では有意に抑制されることが示された。さらに、この反応はTLR4の阻害剤であるTAK-242の投与によって、阻害されることが示された。この結果から炎症反応の存在は統合失調症の症状に対して、必ずしも負の作用を示すのではなく、炎症の強度や炎症が生じている期間などによって、その寄与が異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
得られた実験結果(統合失調症の動物モデルの一つである精神刺激モデルでは炎症反応が生じないこと)が実験計画当初に立てた研究仮説とは異なっていたため、実臨床の炎症状態を反映した動物モデルの作成を試みた。当モデルの作成には精神刺激薬やリポポリサッカライドの至適投与量の設定や作成されたモデル動物の網羅的な行動評価が必要であったため、それらの検証に多くの時間を要した。そのため、立案した計画よりも進捗がやや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
先述した「炎症反応の存在は統合失調症の症状に対して、必ずしも負の作用を示すのではなく、炎症の強度や炎症が生じている期間などによって、その寄与が異なる」という仮説を検証するため、炎症の強度や存在する期間が統合失調症の主症状(陽性症状、陰性症状、認知機能障害)に与える影響を検討する。具体的には精神刺激薬モデルに投与するLPSの投与量や投与期間、投与時期に応じた統合失調症様の行動への変化を評価する。さらに、in vivoで認められた事象の詳細を検討するため、株化マイクログリア細胞(6-3 Microglia Cell Clone)を用いたin vitroの検討を実施し、炎症と統合失調症病態の関連性を検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度ではin vivoの検討に加え、in vitroの検討を開始する。In vitroで用いる株化ミクログリア細胞の活性化の評価にはPBR抗体やIba-1抗体を用いた検討が必要である。そのため、次年度は当初の実験計画通り、実験動物(マウス)を用いたin vivoの検討に加え、先述の細胞を用いたin vitroの検討を行うため、計画書に記載した消耗品を計上した。
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