研究実績の概要 |
近年,うつ病患者の末梢単球におけるオートファジー誘導因子の発現増加, およびオートファジー阻害因子の発現減少が報告されている. 死後脳研究においても,うつ病患者の前頭前野におけるオートファジー抑制遺伝子の発現減少が見られ, うつ病の発症にオートファジー活性の関与が示唆されているが,その分子機構は明らかになっていない.うつ病モデルマウスのマイクロアレイデータおよびうつ病患者の死後脳マイクロアレイデータを解析し,オートファジー誘導因子であるBeclin1(Atg6)遺伝子の有意な発現増加を見出した. また, うつ病患者の前頭前野の死後脳のデータベースにおいて, オートファジーの隔離膜形成に必須な遺伝子(ATG5 , ATG7, ATG12),およびオートファゴソームの形成マーカーである LC3 mRNAの有意な発現増加を確認した. うつ病モデルマウスの前頭前野においても, うつ病患者の死後脳と同様なオートファジー関連遺伝子であるBeclin1, Atg5 , Atg7, Atg12,およびLC3 mRNAの有意な発現増加を定量PCRで確認し, ストレス負荷による前頭前野でのオートファジー活性を明らかにした.さらに,ストレスに耐性を示したマウスにおけるAtg12およびLc3 遺伝子の発現はストレスに脆弱性を示したマウスと比べて有意に増加し,オートファジーの活性化がストレス誘導性のうつ様行動を抑制する可能性が示唆された.また,ストレスに耐性を示したマウスの前頭前野におけるミクログリア由来のLC3タンパク質の有意な発現増加が確認され, ミクログリアのオートファジー活性がストレスに誘発されたうつ様行動に関与することも示唆した.
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