以前に申請者は、imipramine治療抵抗性の認知機能障害を誘発する慢性ストレス負荷(以下ACMS)マウスに対して、δオピオイド受容体 (DOR)逆作動薬SYK-623 が抗うつ様作用と学習記憶改善作用を示すことを明らかにした。本研究課題では、海馬においてδオピオイド受容体の大部分がGABA神経に分布していることか ら、ACMSマウスのGABA海馬神経に対するSYK-623 慢性投与の効果について検討した。当初は、GABA神経の活動が変動することにより作用を表すと考えていたが、慢性ストレスによる海馬GABA神経(somatostatin陽性およびparvalbumin 陽性)細胞数の減少やGABA合成酵素のタンパク質量の減少が、SYK-623慢性投与により阻害された。また、DOR作動薬は、海馬や大脳皮質における興奮性神経のFos活性を増加させ、以前に報告された脱抑制作用が支持された。このことから、SYK-623は慢性ストレスによるGABA神経 の障害を改善することが示唆された。 海馬におけるGABA神経の障害が慢性ストレスによる脳機能障害に関連するかを調べるために、GABA細胞死を誘導した。腹側海馬のGABA細胞死は、ショ糖嗜好試験における快感消失を誘導したが、認知機能に影響を及ぼさなかった。一方、背側GABA神経の細胞死は認知機能を低下させた。ACMSマウスでは、認知機能や快感に重要な領域である側坐核や自律神経機能の上位中枢である背側脚皮質において顕著にERK活性化を増加させ、この反応はSYK-623により抑制された。ACMSと同様に、GABA神経細胞死もこれらの領域におけるERK活性化を増加させた。以上の結果は、GABA神経の障害が、慢性ストレスで誘導される行動変化に関与しており、SYK-623の認知機能改善作用にGABA神経機能の改善が関与する可能性を示唆している。
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