研究課題
高齢者のうつ病治療においては、通常の薬物療法に反応が乏しいことがしばしば見受けられる。その背景に、アルツハイマー型認知症をはじめとする器質性疾患の前駆症状としてのうつ状態、もしくはその合併があるとする報告があるが、臨床症状からの判断だけでは、その鑑別や確認を行うのは困難であることが多い。アルツハイマー型認知症の病態生理の代表的なものとして、老人斑(アミロイドβ)と神経原繊維変化(タウ蛋白)があげられる。アミロイドβについては、PETにより生体内において脳内集積を評価出来るようになっており、アルツハイマー型認知症で認められる病理が高齢者のうつ病発症に関与している可能性が報告されている。一方、アルツハイマー型認知症の認知機能障害の程度は、タウ蛋白の局所集積と関連するという報告があり、タウ蛋白による局所神経細胞脱落が精神・神経症状の出現、進行に強く関与していることが示唆されている。近年、タウ蛋白を対象としたPETリガンドの開発が盛んに行われているが、従来の[11C]PBB3等のPETリガンドについては、脳内のタウ蛋白の定量に一定の制限があることが指摘されている。これらの問題点を改良した[18F]PM-PBB3が開発され、臨床応用が進められているところである。本研究では、65歳以上の18名のうつ病患者に対して、[18F]PM-PBB3を用いたPET測定を行った。小脳を参照領域として、大脳皮質のタウ蛋白集積を算出した。多くの症例ではタウ蛋白の集積は認められなかったが、一部の患者では軽度の集積を認めた。また、タウ蛋白集積はPET測定時の認知機能低下と軽度の関連を認めた。このことから、高齢うつ病患者群の中でもその脳内のタウ蛋白集積に差があること、その集積が認知機能に影響を与えている可能性があることが示唆された。