近年自閉スペクトラム症(ASD)への関心と需要が高まっている一方で十分な生物学的研究は行われておらず、神経回路異常についてはほとんど未解明である。本研究の目的は、ASDを対象に、i)多チャンネル脳波計を用いて定常調整反応の測定を行うこと、ii)安静時機能MRIを測定して脳内の機能結合の評価を行い、ASDの科学的診断方法及び客観的治療反応性評価の確立を目指す事である。 本研究において、ASDにおける64チャンネル脳波計測器を用いて20-80Hz帯域刺激に対する調整定常反応(ASSR)を評価し、神経回路異常について検討を行った。被験者はASD患者18名、年齢と性別をマッチさせた健常対象者18名を対象とした。患者の診断は構造化面接を行いDSM-5に基づき、自閉症診断観察検査 (ADOS-2)及び自閉スペクトラム指数(AQ)を用いてASDの症状評価を行った。 40Hzクリック音におけるASSRにウェーブレット変換を適用し、電極Fczにおける位相同期性を解析した。得られた結果に対し、t検定にて有意差を調べた。その結果40Hz刺激に対する位相同期性がASD患者において有意に低下していた。症状評価と位相同期性の相関では、ADOS-2のB9(対人的働きかけの質)において位相同期性と有意な負の相関を認めた。ASDの病態に神経活動の同期の低下が関与している可能性が示唆された。さらにこれらの結果に基づいて昨年度に引き続き文献研究を進めると同時に、分析と考察を深め学会発表を行った。以上の研究結果を論文化し学会誌に投稿を予定している。さらに、MRIデータについて、共同研究者と継続して定期的にミーティングを行い、解析手法を含めた今後の方向性について情報交換や議論を交わしている。国内外の学会やデータなどにも積極的に門戸を開いてより幅広い知見に基づく結果を出すために解析を行っている。
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