研究実績の概要 |
令和3年度までの研究成果により、ヒト肺非小細胞癌由来細胞株H1299を平均鎖長120の長鎖ポリリン酸で処理すると放射線に対して高感受性となり、細胞増殖に伴う細胞内ATP量の増加がみられず、ミトコンドリアの膜電位も低いことを明らかにした。また、ポリリン酸処理による細胞内ATP量の変化はピルビン酸非依存的、ミトコンドリアの膜電位の変化はピルビン酸依存的であった。グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)活性は、ピルビン酸の有無、ポリリン酸処理の有無に関わらずコントロール細胞との間に差は認められなかった。これらのことより、令和4年度は、まず解糖系に対する影響について検討する目的でポリリン酸にて処理した際の乳酸の分泌量をコントロール細胞と比較したが、ポリリン酸処理の有無に関わらず乳酸の分泌量に差異は認められなかった。Solesioらの研究では、ヒト胎児の腎由来細胞株HEK293のミトコンドリア内の内在性ポリリン酸が欠乏すると細胞のエネルギー代謝が解糖系に移行することが報告されている(Biochem J, 2021)。細胞内のポリリン酸の局在による違いを検証する目的で、酵母由来ポリリン酸合成酵素を細胞質内で高発現させた際の放射線感受性をあらためて検討した結果、細胞外からポリリン酸を添加した場合と同様にコントロールと比較して向上することを確認することが出来た。本研究により、細胞外からのポリリン酸処理はヒト肺非小細胞癌由来細胞株H1299のATP量の減少やミトコンドリア膜電位の低下を導き放射線感受性を向上させるが、解糖系やペントースリン酸回路には影響を与えないことを確認した。今後ポリリン酸が直接ATPシンターゼに作用してATPの合成分解のバランスに関与している可能性について検討する必要である。現在、本研究助成によって得られた研究成果を国際誌に投稿する準備進めている。
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