研究課題
回転強度回転放射線治療 (VMAT) はビームの照射に時間変化がある。呼吸性移動を伴う肺腫瘍・肝腫瘍に対してVMATを行うと、ビームと呼吸、両方の時間変化が相互に作用し、interplay effectsという線量分布のムラを生じる事がある。この影響を予測するためには、VMATの回転中の各方向からのビームを独立して計算しなくてはならない。本研究では、過去に定位放射線治療を施工した8例の患者データを用いてVMATの治療計画を作成し、各方向のMLCセグメントを仮想水ファントムに照射した場合の線量分布を治療計画装置Eclipseを用いて計算させた。計算された三次元線量分布を128×128×256 mmの領域でトリミングし、深さ方向のボクセルサイズを2倍にして128×128×128のマトリックスとして保存した。同じジオメトリの三次元ボリュームを用意し、照射野範囲内は白、照射野外は黒の照射野形状の二値化ボリュームを作成し、線量分布と二値化照射野ボリュームのペアを学習させたニューラルネットワークを用いて、照射野形状から三次元線量分布を予測させる深層学習のネットワークを構築した。最大深、10 cm深では3%/3mmのガンマパス率が94%以上で、良好な予測結果が得られた。患者の肝腫瘍に対するVMAT治療の線量分布を、深層学習で予測した各セグメントの線量分布を積算して計算した。さらに呼吸性移動を加味して各セグメントにおける腫瘍位置をシフトさせてinterplay effectsの予測を行った。腫瘍のD985は平均で3%、最大8.3%低下した。ネットワークの学習には20時間を要したが、呼吸性移動を考慮した腫瘍の線量計算は1回あたり10分程度で完了した。この計算速度であれば、臨床例に対して様々な呼吸パラメータについてシミュレーションを複数回行うことも数十分で可能であり、臨床上の資料計画のフローの中で行うことも現実的に可能と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主なテーマである4次元治療計画を実現するため、VMATの各セグメントを高速に計算するために深層学習を用いた線量分布計算のシステムを構築することができた。interplay effectsの予測は様々な呼吸の初期位相及び呼吸振幅に対してシミュレーションを行う必要があるが、各セグメントの高速計算が可能になったため、呼吸パラメータを変えて複数回計算することも現実的に可能なものとなった。研究成果は学生の修士論文として報告した。
現時点の研究成果は6MVエックス線、定位照射程度の小さい照射野のみを対象としており、汎用性は限定的である。また肝臓は比較的組織が均一なため、不均質補正を実装しなくてもある程度のinterplay effectsは予測可能であると考えられるが、肺野領域では不均質補正を考慮しないと十分な精度で計算を行うことは困難である。定位照射だけでなくIII期肺がんなどにも対応するため、今後は10MVなどのX線エネルギー、より大きい照射野、フラットニングフィルターフリービームなどにも対応させる予定である。
国際学会の旅費として使用予定であったが新型コロナ感染症のためオンライン開催になり、予定していたほどの費用が発生しなかった。次年度使用額として論文作成・投稿費用として使用する予定である。
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