研究課題/領域番号 |
20K08022
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
秋野 祐一 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任助教(常勤) (00722323)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 放射線治療 / 呼吸性移動 / 人工知能 / Interplay効果 / 4次元放射線治療 |
研究実績の概要 |
本研究では、呼吸性移動のある肺がんや肝臓がんに対して高精度放射線治療を行う際に、その放射線治療のビームにも存在する時間変化が臓器の動きと相互作用を起こすinterplay効果について予測することを目的としている。さらに複雑な計算が必要とされる放射線治療において、深層学習を用いたアプローチで取り組むことを目的としている。 今年度は肺がん及び肝臓がんの呼吸性移動に対して動体追尾照射を行った際に呼吸性移動によって線量分布が乱れる程度を確率的手法を用いて解析する方法を開発した。肝臓がんについては体内金属マーカーと体表面の動きを4次元シネCT画像を用いて解析し、その位相シフトから動体追尾の精度の悪化を予測した。また患者の治療データから抽出された腫瘍および体表面の動きを三次元動体ファントムを用いて再現し、実際に模擬ターゲットを追尾するように治療装置を動かして追尾精度を評価した。これらの追尾精度の情報をもとに確率的手法を用いて腫瘍に投与される放射線量の変化を評価する方法を開発した。 さらに、深層学習の技術を応用し、通常のCT画像からデュアルエナジーCTで得られるような仮想単色X線画像を生成する技術を開発した。これにより腫瘍の造影領域をより明瞭に表現し、正確な治療に役立てることができると考えられる。呼吸性移動と同様に、腫瘍の存在範囲を同定するプロセスに含まれる不確かさは放射線を投与する領域の拡大につながるため、これらの不確かさを低減することにより、患者の負担を低減し、より優れた線量分布の実現・治療成績の向上にもつながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度、回転強度変調放射線治療(VMAT)のセグメントから生成される線量分布を深層学習を用いて予測する方法を開発し、その方法を用いて呼吸性移動のある腫瘍に対するinterplay効果を予測する結果を報告した。その研究成果は肺がんの定位放射線治療を対象としたもので、小さい腫瘍に限定されるものであった。今後はその精度を向上させ、より正確に線量分布の推定を可能にし、さらにIII期肺がんなどより大きな腫瘍に対する治療にも対応可能なモデルを完成させることを目標としている。本年度はその部分について大きな進捗はなかった。 しかし、腫瘍の呼吸性移動による存在確率を考慮した線量分布の推定については研究の進捗があり、論文も2報発表することができた。また深層学習を応用した研究も進んでおり、研究テーマ全体としては一定の進捗があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
深層学習を用いた線量分布推定の精度を向上させ、さらに不均質補正などにも対応し、腫瘍の呼吸性移動に伴うinterplay効果をより正確に評価できるシステムを構築していく予定である。学習対象を大きな照射野や他のエネルギーにも拡張することにより、定位放射線治療から大きな腫瘍に対する通常分割照射まで、さまざまな場面に対応可能な予測システムを構築することを目指す。腫瘍の存在確率分布を考慮した治療計画については、データを取得しやすい状況にあるサイバーナイフ治療も対象に加えて、より円滑に解析ができるよう柔軟に対応しながら研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究成果を論文化するには、まだ解析の精度に改善の余地があり、補助事業の1年延長を申請した。最終的な研究成果を学会・論文で発表するための予算として残額を次年度に繰り越した。
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