粒子線治療やIMRTなどの高精度放射線治療は、標的周囲の正常組織に高線量が照射される危険性があることから、晩期放射線障害が避けて通れない大きな問題となっている。脳の晩期放射線障害の中でも予後を左右する重篤な副作用は脳放射線壊死であり、これらに関する研究は古くからあるものの、未だに病態の全貌は解明されておらず、診断や治療に関しても確立したものがない。 中枢神経系の髄鞘は、オリゴデンドロサイトからなり、神経細胞の軸索を覆い、神経信号の高速伝達に重要な役割を果たしている。脱髄疾患では、ミエリンが消失し (脱ミエリン化)、修復機構である再ミエリン化が障害されていることが多発性硬化症などの脱髄疾患において明らかとなっている。課題代表者らはオリゴデンドロサイトを選択的に障害するクプリゾンを用いて作製した脱髄モデルマウスを用いた研究において、そのマウスにオリゴデンドロサイト前駆細胞を移植すると機能が一部回復することを明らかにした。そこで、放射線照射による脱髄の発生メカニズムとして、オリゴデンドロサイトに着目した実験を計画し、in vitroおよびin vivo実験を開始したが、他の業務との兼ね合い、実験条件の確率に想定以上に時間を要したこと、またコロナ禍による人員不足等により研究が大幅に遅延した。予定していた研究を期間内に完遂することができなかったが、今後も継続して放射線照射による脱髄のメカニズムを明らかにしていきたい。
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