生体適合水溶性ポリマーは、医薬品の可溶化剤等として臨床利用されている。一方で、それ自体ががん組織に集積性を示すか否かについては殆ど明らかにされておらず、未開拓の研究領域である。本研究では、①種々の分子構造的特徴を有する水溶性ポリマーが如何なる機構でがん組織内に取り込まれるか、また、その放射性標識体ががんの核医学診断用プローブになりうるかについて検証する。そこで得られた知見を基に、高いがん集積性を示す新規ポリマーの創出を目指す。また、②水溶性ポリマーが持つ熱応答凝集作用に着目し、熱をトリガーとしたがん組織へのポリマー送達量の改善ならびに、治療用放射性同位元素による標識体を用いる放射線療法用薬剤としての可能性を検証する。本年度は、以下の結果を得た。 ①昨年度検証した、ポリオリゴエチレングリコールメタクリレート(POEGMA)誘導体のがん集積性に関する研究成果を論文報告した。また、スルフィニル基を含有するポリマーの放射性標識体を新規に合成し、これががん組織へ集積することを明らかとした。②下限臨界溶液温度以上の温度条件において、POEGMA誘導体が、がん細胞へ高く取り込まれることを見出した。さらにインビボにおいても、がんの加温条件下、凝集作用を介して、POEGMA誘導体ががん組織へ高く集積することを明らかとした。これらの結果より、POEGMA誘導体をはじめとする熱応答凝集性ポリマーとがんの温熱療法を組み合わせる新たなドラッグデリバリーシステムを構築できたものと考える。
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