研究課題/領域番号 |
20K08064
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
中山 文明 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, グループリーダー(定常) (50277323)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 組織幹細胞 / 放射線障害 |
研究実績の概要 |
本研究は、組織修復を担当する幹細胞(Muse細胞)による放射線小腸障害の予防・治療法の開発を目的としている。急性放射線小腸障害の増殖因子による治療研究に長年取り組んできた経験・実績から、急性放射線障害の実験モデルを構築しており、放射線組織障害の再生を実験的にマネージし正当に評価できる能力を生かすことで、放射線障害の幹細胞治療法を探索していく。しかしながら、放射線小腸障害部位での幹細胞により再生治療の困難が予想されており、Muse細胞をそのまま生体に投与しても単純に放射線障害の再生医療にはならない可能性がある。そこで、我々はES細胞・iPS細胞など幹細胞の扱いに熟達しており、増殖因子の幹細胞分化に関する豊富な知識も有することから、放射線障害部位での幹細胞の分化研究を実施する。一方、Muse細胞が放射線障害部位にホーミングすることが、幹細胞治療による再生医療のポイントになる。我々は細胞ホーミング機構に関係する糖鎖生物学にも豊富な経験があることから、幹細胞ホーミング機構の解明にも取り組む。以上により、Muse細胞による放射線障害幹細胞治療を成功させる技術の確立を目指している。 初年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で研究活動が大きく停滞したが、出澤らの方法により、ヒト線維芽細胞及びヒト骨髄由来間葉系幹細胞からMuse細胞を培養し、SSEA-3をマーカーとしてセルソーターで分離に成功した。種々の検討により多能性を持つことが確認でき、Muse細胞と同定した。一方、γ線照射の放射線小腸障害モデルはすでに確立したものを持っているが、このモデルを使った検討は延期し、次年度に行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症対策により研究室内での研究活動が規制され、研究計画が大きく遅延した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト線維芽細胞もしくはヒト骨髄由来間葉系幹細胞からSSEA-3をマーカーとしてセルソーターで分離したMuse細胞を、8~12Gyのγ線全身照射を行ったBALB/cマウスもしくはSCIDマウスに種々の条件で投与し、小腸クリプト数などの組織学的評価、LD50/6、骨髄移植後による生存率等により、障害の予防・治療効果を評価し、実験モデルとして最適な投与条件を決定する。さらに、腸管組織の分化状態を免疫組織学的に評価し、シングルセル解析を中心とした遺伝子発現解析を加えることで、いわゆる外来性の幹細胞が放射線小腸障害組織において、どの程度特異的にホーミングし、どの段階まで分化しているのか明らかにする。この基礎データに基づき、動物モデルの再構築に取り組み、特に実際の放射線治療に伴う腸障害の臨床に近い照射後中長期の放射線障害幹治療モデルの確立を目指す。一方、実験モデルから得られた組織を使って、Muse細胞のホーミングマーカーとして知られるS1Pを免疫組織化学染色や質量分析で解析し、阻害実験を加えることで放射線障害組織へのMuse細胞のホーミングメカニズムを解明する。以上の成果に基づき、重粒子線照射条件へ実験モデルを適応させ、重粒子線がん治療による腸障害治療への応用の可能性を探っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染対策のため、すべての出張が中止になり旅費を全く使用しなかった。同様の理由による規制で研究室での実験も抑制されたため、予定していた高額な抗体・組織免疫試薬・SCIDマウスの購入を実施せず、次年度使用額が生じた。
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