研究課題
神経変性疾患の剖検脳のMRI画像と生前脳MRIと形態と比較検討したところ、大脳基底核変性症やパーキンソン病において生前MRIでは脳梁の菲薄化と脳室の拡大を示す正常圧水頭症の所見を示したが、死後脳MRIでは脳梁の萎縮を認めず、また脳室の拡大もなかった。これらの画像の違いは生前では脳実質内の間質液の動態(いわゆるglymphatic system)の障害があることが示唆された。また生前の画像研究では、AD患者において、glymphatic systemの指標として拡散テンソルから求めたDTI-ALPS indexと、PETでのアミロイドやタウの脳内沈着との相関を検索したところ、アミロイドでは両側側頭葉、左頭頂葉と後部帯状回に、タウでは両側側頭葉と右頭頂葉に負の相関を認めた。つまりアミロイドやタウが側頭・頭頂葉に沈着するに従って、脳間質液の流れが低下する結果を示した。またglymphatic systemの機能を反映するとされる脈絡叢の体積とPETにてアミロイド、タウの相関を調べたところ、共に正の相関を示した。特にAD患者においては脈絡叢の体積とタウとの相関を強く認め、脈絡叢の体積は、タウ沈着の指標となりうることが示された。次いで水頭症をきたすことが多いPSP患者において、DTI-ALPS indexと脳実質の白質体積の相関を検索したところ、ALPS indexと脳幹で正の相関を認めた。つまり脳幹の萎縮が進行するほど、glymphatic systemの障害が強くなる、という結論であった。以上神経変性疾患において、アミロイドやタウなどの脳内沈着により、glymphatic systemが障害され、脈絡叢や引いては脳室の拡大をもたらすことが推測された。MRIは非侵襲的に脳内の生体内の動態・病態を観測できる優れた検査で、さらなる画像研究の発展が期待される。
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