本研究では放射線を用いたがん治療における、強度変調回転照射(VMAT)の治療計画を高精度に自動化するため、理想的な仮想線量分布の生成および活用方法の開発を実施し、性能評価を行った。高精度な放射線治療には熟練した治療計画者の経験と工数が不可欠であるため、品質における施設間格差がしばしば懸念されるが、高精度な自動化による品質の均一化は小規模施設においても治療の品質と安全性が担保される、有用な対策である。 1年目では独自に開発したmodified Filtered Back Projection (mFBP)法を改良し、頭頸部など複雑に入り組んだ部位でも問題なく仮想分布を作成できるようにした。下咽頭、中咽頭の治療10例の患者データに対し、mFBP法を用いた線量分布が、十分な精度を持って作成可能であることを確認した。 2年目ではmFBP法を、フィリップス社、PlanIQソフトウェアが提供するFeasibility DVHを用いた治療計画最適化法との精度の比較検討を行った。20例の高リスク前立腺がん治療を対象とし、70Gy30分割の治療計画をそれぞれの手法を用いて行い、臨床に使用されたデータを含めた3者で結果を比較した。腫瘍への線量投与は十分な精度を保ったまま、特に直腸壁への放射線照射を抑える事が出来る事を確認した。 3年目を含む研究期間全体においてAI、深層学習を用いた仮想分布の生成に取り組み、mFBPやPlanIQの方法などと相互比較を行った。AIモデルにはU-NetやGAN、VoxelMorphなどを広く試用し、性能を検討した。生成した仮想線量分布からアルゴリズムに従って患者個人に合わせたオーダーメイドテンプレートを生成し、人間の判断が介入しない、自動的な治療計画最適化フローを構築した。現在は引き続き、本手法をいずれの治療計画装置にも取り込み、広く活用するための研究開発を行っている。
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