研究課題/領域番号 |
20K08087
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
木村 充宏 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (90782334)
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研究分担者 |
長縄 直崇 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 研究員 (60402434)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 陽子線治療 |
研究実績の概要 |
放射線抵抗性腫瘍に対する陽子線の治療効果の向上を目的として、ホウ素11原子核と陽子の核反応で生じるアルファ粒子を用いるホウ素陽子捕捉療法(PBCT)が提案されている.現状、細胞実験から得られた生物線量と反応断面積から推定される物理線量には食い違いがあり,作用機序は明らかでない.ただし数MeV以上の反応断面積に測定点がほとんどなく,物理モデルには議論の余地がある.本研究ではホウ素を含む新型原子核乾板を開発して核反応点近傍を直接観察し,PBCTの物理モデルを明らかにすることを目的とする. 乳剤層中にホウ素を含む新型原子核乾板を開発することを本年度の目標とした.直径40 nmのハロゲン化銀結晶からなる超微粒子型原子核乳剤に様々な濃度の五ホウ酸塩水溶液を混ぜてスライドガラスに塗布し,常温無風下で1週間乾燥させた乳剤の状態を観察した.乳剤層厚20 umでは異状を認めなかったが,乳剤層厚60 umでは濃度8 x 10^{-1} mol/Lの水溶液を混ぜた乳剤表面上に針状結晶の析出を認めた.これは塩の移動によりホウ酸塩が表面に析出したことを示しており,五ホウ酸塩水溶液の添加許容量は,乳剤の乾燥速度と塩の移動速度に依存することが分かった. 新型原子核乾板の反応検出能力,乳剤層中のホウ素の均一性を評価するため,京都大学複合原子力科学研究所原子炉で平均20 meVのエネルギーを持つ熱中性子を5 x 10^{8} cm^{-2} の密度で照射した.その後,現像液XAAで20 C,25 minで現像し,落射照明顕微鏡下でB10(n, a)Li7反応を探索した.予想頻度は100 x 100 um^{2} あたり4事象であったが,発見した事象は3.1±0.6とおおよそ一致した.発見した事象は深さ方向に対して反応数が統計誤差の範囲で一様であり,乳剤層中で五ホウ酸塩が一様に分布していることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス蔓延防止に伴う外出制限により研究施設間の移動が制限されたが,当年度実施目標であるホウ素標的を含む新型原子核乾板の開発,熱中性子照射実験による検出器の性能評価を無事遂行することができた. しかし新型原子核乾板開発中に二つの問題点が明らかになった. (1) 五ホウ酸塩添加量に制限があり,標的であるホウ素量を増やせず,統計量を稼ぎにくいこと,(2) ホウ素中性子反応点近傍の銀粒子列の粒子間隔が通常型乾板と比べて広がっており,反応点から放出される短い飛程をもつ核破砕粒子の観察には不向きであること,である.したがって開発した新型原子核乾板は実験に必要な性能を有しておらず,異なるアプローチで検出器を開発する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き検出器開発を行う.前年度開発した新型原子核乾板がもつ欠点を克服するため,(1) 乳剤層中にホウ素の粉体を分散させる手法,(2) ホウ素を含むゼラチン層を乳剤で挟む手法の二方向から開発を進める.(1)では,ホウ素粉体を用いることで乳剤の希釈を防ぎ,粒子間距離を維持できると推測される.(2)では,乳剤層と独立な環境になるホウ素を含むゼラチン層を作ることで,より大量のホウ素を含む標的を用意することが可能になる.本年度も京都大学原子炉で中性子実験を行い,上記二つの検出器の性能を評価する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症蔓延防止に伴い,参加を予定していた国内国際会議の発表形態がWeb開催もしくはプロシーディングスのみ発行に変わった.また京都大学原子炉での中性子照射実験では,受け入れ先の京都大学側から実験の参加人数を最小限にしてほしいとの要望を受け,検出器のみを現地に送り,条件を指定して中性子を照射してもらうという対応をとった.これらの理由で,計上していた旅費が不要になった. 今年度は前年度と同様,新型原子核乾板の開発と性能評価を行い,検出器の目処が立った時点で陽子線照射実験を行う.検出器のR&Dおよび陽子線照射実験に必要な費用は申請時に計上している.一方,新型コロナウイルスの収束は未だ不透明であり,今年度も国内国際会議はWeb開催となり,発表のため現地に赴く旅費は不要になる可能性が高い.不要になった旅費は,論文発表時のオープンアクセス化に必要な費用として使用する.
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