研究課題/領域番号 |
20K08090
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
飯田 靖彦 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (60252425)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射性銅 / 67Cu / 核医学治療 / がん / マウス / somatostatin / 放射性薬剤 |
研究実績の概要 |
本研究は治療用放射性核種(RI)としての67Cuに着目し、がん治療における有効性を調べるとともに、67Cuによる内用放射線療法の臨床的有用性を基礎的に評価することを目的とする。本年度は67Cu標識薬剤の設計・合成、体内動態、抗腫瘍効果の検討を行った。神経内分泌腫瘍 (NET) を標的として、somatostatin受容体 (SSTR)に親和性を有するSST誘導体:TATE (DPhe-c[Cys-Tyr-DTrp-Lys-Thr-Cys]-Thr) を選択し、CuキレータとしてATSM構造をアミノ酸側鎖に導入した新規放射性Cu標識薬剤を合成した。各化合物の非放射性銅複合体について、Human recombinant SSTR2, SSTR3, SSTR5に対する選択制を比較検討した結果、ToDBTTATEが最も良好な物性を示した。そこで67Cu標識ToDBTTATE (67Cu-ToDBTTATE)の有用性を確認するため、担がんマウスにおける体内分布および腫瘍抑制効果を評価した。体内分布を調べたところ、67Cu-ToDBTTATEは腫瘍に長時間集積することが分かったが、腫瘍以外にも肝、腸、腎などに滞留する結果となった。次に腫瘍抑制効果を評価した結果、未処置群、ToDBTTATE投与群に対し、有意に腫瘍の成長を抑制した。体重比は67Cu-ToDBTTATE投与群で約10%程度の減少がみられた。体重減少を生じた原因は明らでないが、腫瘍以外の臓器に対する67Cuの滞留により何らかのダメージを受け、体重減少が生じた可能性が推察される。今回の検討で67Cu-ToDBTTATEが腫瘍抑制効果を示すことを明らかにできた。今後は67Cuの特性を考慮して、腫瘍サイズや投与量を変えて評価するとともに、より優れた体内動態を持つ化合物の開発を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
21年度は67Cu標識薬剤の設計・合成、体内動態、抗腫瘍効果の検討を行った。今回分子設計したnatCu-ToDBTTATEはLog D7.4値が0.41±0.05で、以前に比べ水溶性を向上させることができたが、その物性に相関したタンパク結合率の低下は認められなかった(PB (%)=97.49±0.11)。一方でATSM系の特徴である「細胞内などの還元活性の高い環境下でCuを解離する」ことが確認され、標的組織内に滞留する可能性が示された。SSTR2結合親和性は、Human recombinant SSTR2に対するトレーサー([125I]Tyr11-somatostatin 14)とnatCu-SST複合体との競合結合実験法を用いて、トレーサーの結合を50%阻害するnatCu-SST複合体濃度をIC50値として算出した結果、natCu-ToDBTTATEのIC50値は1.79 nMとなった。AR42J細胞2.5×106個をBALB/c-nu/nu雄ヌードマウスの右腹側部に皮下移入し、担がんマウスを作製し、67Cu -ToDBTTATE投与1, 24, 48時間後の体内分布を評価した結果、67Cu-ToDBTTATEは腫瘍に長時間集積することを認めた。そこで担がんマウスを未処置群(n=4)、ToDBTTATE投与群 (n=6)、67Cu-ToDBTTATE投与群(n=6)に分け、67Cu-ToDBTTATEによる腫瘍抑制効果を比較検討した。未処置群、ToDBTTATE投与群における処置14日後の相対腫瘍サイズは、それぞれ8.41±2.65, 6.04±1.86であったが、67Cu-ToDBTTATE投与群では2.41±1.20を示し、有意に腫瘍の成長を抑制した。
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今後の研究の推進方策 |
今回の検討で、Cu-ToDBTTATEが神経内分泌腫瘍 (NET)に集積し、滞留すること、また67Cu -ToDBTTATEがNET治療薬として有効であることが示された。今後は、腫瘍サイズと67Cu標識薬剤の治療効果の関係について調べていく。すなわちAR42Jラット膵臓外分泌腺癌細胞をヌードマウスに移入し、腫瘍が約1cmに成長した後(2~3週間)、動物実験に使用する。その際、移入する細胞数を2.5×106 ~1.0×107まで変え、異なるサイズの腫瘍を生成する。67Cu標識SST誘導体20 MBqを担がんモデルマウスに投与する。対照としてsalineあるいは等量の未標識体を投与したマウスも用意する。腫瘍の成長を2、3日間隔で2~3週間観察し、腫瘍サイズと抗腫瘍効果の関係を明らかにする。 その後は、90Y標識薬剤の治療効果との比較検討を行う。AR42Jラット膵臓外分泌腺癌細胞をヌードマウスに移入し、腫瘍が約1cmに成長した後(2~3週間)、動物実験に使用する。90Y標識SST誘導体 0.925 MBq、1. 85 MBq、3.7 MBqを担がんモデルマウスに投与する。対照としてsalineあるいは等量の未標識体を投与したマウスも用意する。腫瘍の成長を2、3日間隔で2~3週間観察し、67Cu標識薬剤の結果と比較検討し、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では67Cu標識放射性薬剤を設計、合成し、67Cuによる核医学治療の臨床的有用性を基礎的に評価することを目的としている。今年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、治療効果を調べる動物実験を予定通り実施することができず、2回の実験にとどまったため、次年度使用額が生じることとなった。今年度に得られた予備検討の結果では明らかな治療効果が認められていることから、次年度、同様にモデル動物を作成し、67Cu標識放射性薬剤の腫瘍抑制効果について実験を進める予定である。 次年度は67Cu標識薬剤を用いて担がんモデルマウスにおける腫瘍抑制効果の基礎実験を実施する。すなわちNETモデルマウスとして、ラット膵臓外分泌腺癌(AR42J)細胞を6週齢の雄ヌードマウスに移入後3週間腫瘍を生育し、これに67Cu-ToDBTTATEを投与して経時的に腫瘍の成長を計測することで 67Cuの腫瘍抑制効果を評価する。実験には未処置群、ToDBTTATE投与群、67Cu-ToDBTTATE投与群の3群を準備し、67Cuを用いた核医学治療について比較検討する。
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