研究課題/領域番号 |
20K08100
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
榎本 敦 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (20323602)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | MAP3Ks / カルシウム / カルパイン / ハイパーサーミア / 放射線増感 |
研究実績の概要 |
本研究は、放射線増感に直結する原因タンパク質を生化学的アプローチにより同定し、放射線あるいは他の療法との併用による抗腫瘍効果における真の標的を明らかにするとともに創薬に向けた土台を構築することを目的とする。正常細胞と様々な癌組織由来の培養細胞を用いて、エックス線や温熱などの単独あるいは併用時によるタンパク質の挙動について二次元電気泳動および質量分析装置を使用したプロテオーム解析を実施した。その結果、温熱処理特異的に発現量が低下する因子としてMAPKキナーゼカスケードを構成し、MAP3KメンバーであるMEKK2、RAF1、TAK1を同定した。面白いことにエックス線照射ではこれらのMAP3Kメンバーの発現低下は認められず、また温熱処理時に他のMAPKカスケード構成因子MAP2KであるMEK5、MKK4やMAPKに属するJNK、ERK1/2などにも発現変化は認められなかった。これら温熱特異的なMAP3Kの発現低下のうち、MEKK2とTAK1についてはタンパク質分解酵素の阻害剤であるALLNやCalpeptinなどによって抑制されたことから、タンパク質分解経路による翻訳後修飾によるものであることが判明した。一方、RAF1に関しては、RT-PCR解析により遺伝子発現レベルでの低下とあることが推測された。さらにカルシウムイオノフォアA23187による影響を解析した結果、MEKK2、TAK1の分解が見られ、それらの分解はカルパイン阻害剤で抑制された。これらのことから温熱特異的なMAP3Kの発現低下はカルシウム経路によるタンパク質分解系が関与していることが示唆された。さらにMEKK2, TAK1, RAF1の発現をsiRNAにより抑制したところ、細胞増殖やコロニー形成能が顕著に抑制された。以上の結果より、温熱によるMAP3Ksの発現低下は細胞増殖の抑制に寄与することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに様々な細胞株を用いて温熱処理時にMEKK2、TAK1,RAF1などMAP3Kに属するタンパク質分解が起こることを見出した。これらの発現低下はカルパイン阻害剤により抑制されたことから、カルパイン経路の活性化によるものであることが推察された。一方、カルパインの活性化にはカルシウム濃度の上昇が必要であり、細胞内カルシウム濃度の上昇によるMAP3Kへの影響を調べた結果、カルシウムイオノフォアA23187はMEKK2やTAK1を限定分解することを見出した。さらにカルシウムインジケーターを用いたカルシウムの細胞局在解析においても温熱が劇的に細胞内カルシウム濃度を高めることを確認できた。一方、エックス線照射によるカルシウム濃度の亢進は温熱に比べると有意に有意に緩やかやものであり、温熱とX線のカルシウムを指標とした細胞応答が異なることを視覚的に捉えることができた。このように培養培養細胞を用いた温熱処理によるタンパク質解析の結果が再現性良く見られ、阻害剤実験による分解系の関与を速やかに実証できた。また基質タンパク質の精製もキットによる大量かつ短時間での精製や保証済みのsiRNAを用いた効率的な遺伝子ノックダウンによる影響解析が実施できたことで概ね予定通りに研究が遂行できている。しかしながら、コロナ禍により研究発表の機会が減少し、十分に意見交換ができていないところはある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに細胞を温熱した際にMAP3Kに属するMEKK2、RAF1やTAK1などのタンパク質発現量が低下すること、そのうちMEKK2やTAK1の発現低下がカルパイン阻害剤で抑制されることがわかった。さらに温熱によるMAP3K発現低下の生物学意義を解析するため、siRNAを用いた遺伝子干渉によりそれぞれの遺伝子発現を人為的に低下させた細胞の挙動を検証した結果、細胞増殖やコロニー形成能の抑制がみられた。そこで放射線照射の前後に温熱処理を施すことにより、放射線単独に比べてMAP3Ks依存性の増殖を標的とした放射線増感効果が見られるか検討を行う。具体的には、ATP消費を指標とした細胞増殖能、コロニー形成能、Annexin Vを指標としたアポトーシスについて解析を行う。また近年のハイパーサーミアは41-42°の比較的緩やかな温度条件で行われている。そのためこれらの温度領域における放射線増感について、MAP3Ksの寄与についても検討を行う。コロナの感染状況次第ではあるが、今後は積極的に学会や研究会等に参加して、研究成果の発表や内容についてより議論を深める機会を得るようにする。一方、コロナ禍の影響により、試薬や研究用消耗品の物流低下や値上げが予想されているので、研究が滞ることがないように早めに資材等の確保ができるよう細心の注意を払っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により学会が全てオンラインとなったため、旅費を使用することがなかったために生じた。今年度は感染状況が好転すれば積極的に学会や研究会での対面発表を行う予定である。
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