研究実績の概要 |
本研究は、放射線増感に直結する原因タンパク質を生化学的アプローチにより同定し、放射線あるいは他の療法との併用による抗腫瘍効果における真の標的を明らかにするとともに創薬に向けた土台を構築することを目的とする。正常細胞と様々な癌組織由来の培養細胞を用いて、エックス線や温熱などの単独あるいは併用時によるタンパク質の挙動について二次元電気泳動および質量分析装置を使用したプロテオーム解析を実施した。その結果、温熱処理特異的に発現量が低下する因子としてMAPKキナーゼカスケードを構成し、MAP3KメンバーであるMEKK2、RAF1、TAK, ASK1, MLK-3を同定した。面白いことにエックス線照射ではこれらのMAP3Kメンバーの発現低下は認められず、また温熱処理時に他のMAPKカスケード構成因子MAP2KであるMEK5、MKK4やMAPKに属するJNK、ERK1/2などにも発現変化は認められなかった。これら温熱特異的なMAP3Kの発現低下のうち、MEKK2とTAK1についてはタンパク質分解酵素の阻害剤であるALLNやCalpeptinなどによって、ASK1はプロテアソーム阻害剤MG132によって抑制されたことから、タンパク質分解経路による翻訳後修飾によるものであることが判明した。温熱処理とは異なりエックス線照射はTAK1, ASK1, RAF1は活性化させることからMAP3Kの活性化に関しては温熱とエックス線では相反する反応を示した。 さらにMEKK2, TAK1, RAF1の発現をsiRNAにより抑制したところ、細胞増殖やコロニー形成能が顕著に抑制された。以上の結果より、温熱によるMAP3Ksの発現低下は細胞増殖の抑制に寄与することから、温熱はエックス線によるMAP3K活性化を阻害し、放射線増感をもたらす可能性が示唆された。
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