放射線曝露による細胞損傷をタウリンが緩和するシグナル伝達経路を解明することは、新たな創薬開発につながることから非常に重要である。本研究の目的は、ヒトへの放射線被ばく影響の緩和にタウリンを応用するための研究基盤を確立することである。 令和4年度は「放射線曝露による細胞損傷をタウリンが緩和するTNF-αおよびTLR/ NF-κB シグナル伝達経路」を明らかにすべく、この検討に最適なタウリントランスポーター欠損モデルマウスを用いて病理組織学的分析を行った。 実験群は非照射群、照射群、タウリントランスポーター欠損モデルマウス照射群とした。放射線曝露後のTNF-α発現、TLRファミリー発現を病理組織学的手法により比較解析した。 腸上皮細胞のTNF-αがタウリントランスポーター欠損モデルマウスで増加することを見出した。タウリントランスポーター欠損によるタウリンの欠乏は、腸上皮細胞の炎症を増悪させた。同様に、クリプト周囲マクロファージにおけるTLRファミリーについて検討したところ、特にTLR4発現がタウリントランスポーター欠損モデルマウスで低下し、腸上皮幹細胞の増殖能力低下と一致することを見出した。 本研究から、タウリントランスポーター欠損によるタウリンの欠乏は、 TLRを介したシグナル伝達経路、ROSの生成、細胞死経路を効果的に調節することができず、放射線曝露による腸上皮幹細胞の増殖能力低下につながった可能性が考えられる。タウリン取り込みに関連するタウリントランスポーター発現が放射線曝露による炎症の抑制に関連する可能性が考えられる。放射線曝露後のタウリントランスポーター発現の維持が放射線による細胞損傷を調節するカギとなることが示唆された。この研究結果は令和5年3月7日に開催された第9回国際タウリン研究会にて発表した。
|