研究課題
放射線治療や細胞障害性の抗がん剤治療は、がん細胞のDNAに外的に二本鎖切断を与え、がん細胞に細胞死を引き起こすことを目標とする治療である。生成されたDNA二本鎖切断が修復されずに残存すれば細胞は死滅するが、二本鎖切断が修復されると細胞は生き残ってしまう。したがって、有効ながん治療を行うためには、正常細胞には存在せず、がん細胞のみに存在するDNA修復の制御異常の特性を捉えて治療戦略に生かすことが重要である。DNA修復は、細胞周期制御などの他の細胞機能と連携して機能し、また、多様な因子によって制御を受けていることが想定される。本研究では、DNA二本鎖切断修復を担う主要な経路の1つである相同組換え修復に関与する分子群が細胞周期制御をはじめとする他の細胞機能とどのように連携しているのかに焦点をあてて機能解析を行うことを通じて、放射線治療を含むがん治療の最適化のための治療戦略を提唱するための基本原理を確立することを目指している。昨年度までに、正常の網膜上皮細胞においていくつかの相同組換え関連分子の発現を抑制し、G0/G1期に細胞周期を同調させた後の細胞周期の進行に与える影響を解析したところ、いくつかの相同組換え関連分子の発現抑制によって細胞周期の進行が遅延する現象が見られることが分かっていた。今年度に入り、これらの発現抑制細胞において、G0/G1期同調後にリリースした後、時系列毎に細胞を回収し、Rbリン酸化状態を調べたところ、相同組換え関連分子の発現抑制群の細胞では、Rbのリン酸化が著明に遅延していることが分かり、相同組換え関連分子がG1期からS期への進行に促進的に働いている可能性が示唆された。相同組換え修復は、S期後半からG2期に限定して働くことから、相同組換え修復とは異なるメカニズムによって相同組換え関連分子がG1期の細胞周期進行を制御している可能性を考え、解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
いくつかの相同組換え関連分子がG1期の進行制御においても役割を果たしている可能性を示唆する知見を得たため。
G0/G1期における細胞周期制御に影響を及ぼすことが観察された相同組換え関連分子について、その発現抑制がCyclin D1-CDK4/6の複合体形成や発現レベルに及ぼす影響やその細胞内局在を手がかりに、G0/G1期の細胞周期を制御するメカニズムを探索する。
(理由)有効なsiRNAや抗体が順調に同定できたため、予定より少額で研究を遂行することができた。また、COVID-19の流行の影響により、現地参加を予定していた学会が全面オンライン開催もしくはハイブリッド開催に変更になり、オンラインで参加した学会が多かったため、旅費の支出が減った。(使用計画)次年度の物品費と合わせ、相同組換え関連分子の細胞周期制御における役割解明のための機能解析に充てる予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Journal of Radiation Research
巻: 62 ページ: i44~i52
10.1093/jrr/rrab009
Nature Communications
巻: 12 ページ: 2833
10.1038/s41467-021-23097-w