研究課題
膵癌の切除後の予後を規定する因子として術前の局所の進展度、腫瘍サイズ、腫瘍マーカー(CA19-9など)が知られているがこれらの既知の因子に加え、腫瘍自体の悪性度(分化度、転移能など)が関与している。病理レベルでは既にこれらの悪性度に腫瘍内の微小環境、具体的には癌細胞以外の間質環境(線維化、血小板、炎症細胞)が大きく関わっていることが明らかとなってきた。中でも腫瘍内の線維化、特に腫瘍関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast;CAF)が膵癌の予後に関与することが分かっている。ただこのCAFの多寡を術前に推定する方法がなく、我々は術前の画像検査を用いてこれを推定し、予後予測の画像バイオマーカーとして確立するべく、令和2年度に引き続き研究を行った。1.令和3年度は令和2年度に引き続き術前化学療法や放射線療法なく切除を行った症例集積を進めた。対象施設は変更なく金沢大学附属病院、名古屋市立大学病院およびその関連施設とした。症例集積は116例となっている。これらの症例データベースに術前腫瘍マーカー等の採血データ、術後補助療法の有無、予後等のデータを追加し、金沢大学附属病院および関連施設データに関しては必要な採血、予後データはほぼ追加が終了した。2.さらにデータベースでの症例、データ追加に平行して集積した匿名化画像データ(CT,MRIなど)の解析を進めた。特にCT,MRIではまず視覚解析を放射線科医2名で行い、腫瘍径、進展度(血管浸潤、神経叢浸潤、リンパ節腫大など)、造影パターン解析および造影各相における腫瘍性状(均一、不均一、リング状濃染の有無など)について記録し、データベースに追加した。さらに病理標本の集積および染色を進め、デジタルデータとして保存、追加を行った。本年度研究の過程において下記論文発表および学会講演を行った。
3: やや遅れている
本研究は令和2-4年度の3年間での研究計画であり、令和3年度には上記の如く症例データベース作成の進行を行ったが目標としている症例数(200例)に対して116例と目標に達していない。コロナ禍で膵癌自体の手術件数が少なかったこと、術前化学療法を行った後に切除を行ったため、今回の研究対象から外れた症例が多かったことが原因として考えられる。また関連施設への出入りも制限され、大学病院以外の症例集積が滞ったことも一因である。一方で既に集積済みの症例に関しては画像データの集積および視覚解析は予定通り進行し、データベースに追加することが出来た。また病理標本の集積も進み、免疫染色の追加およびバーチャル化を行うと同時に取り込み済みの病理データについては腫瘍内に占める免疫染色(α-SMA,ポトプラニンなど)陽性比率の解析(キーエンス社製ソフト)を始めることが出来たため、今後は病理標本の集積、染色、取り込みを行った症例に関しては病理レベルでの腫瘍内微小環境解析がスムースに行える見通しが確立した。
令和4年度に関しては特に関連病院症例の集積を進め、目標の症例数を目指すとともに既に集積済み症例の画像データ、病理標本集積および解析を進める。特に術後補助療法の有無および予後に関するデータの補完を進める。画像データ解析の視覚評価に関しては評価項目の選定、解析手法に関して令和3年度に確立し、解析を進めることが出来たため、今後も集積と平行して解析を行うことが可能である。また病理解析においてもCAFの定量化手法が令和3年度の研究で確立されたため、引き続き病理データの集積、免疫染色、バーチャル化を行い、順次病理学的な微小環境解析を進め、画像データ、予後と比較解析を行う予定をしている。また画像データのテクスチャ解析のための解析ソフト(MATLAB;Mathworks社)の導入、セットアップを進め、画像データの定量解析を行う予定をしている。またこれらの作業と同時に既に術前採血データや予後を含め、データ集積が完遂している症例に関しては画像、病理データとの比較解析を進め、本研究の目的である術前画像を用いた予後予測の画像バーオマーカーの検索を進める。現時点での課題としては症例数が目標に達していないことが挙げられるが主に関連病院での症例集積を進めることでさらに目標数に近づける見通しが立っている。仮に目標症例数に達しない場合でも既に集積した症例の解析を行うことで当初の目的である予後予測、腫瘍内微小環境推定に有用な画像所見の抽出が可能であると見込まれる。
令和3年度は令和2年度に引き続き、データベース作成の継続、画像データ集積および視覚的解析、病理標本の集積および免疫染色、バーチャル化、病理データの定量解析を行った。本年度は名古屋市立大学病院や各関連病院へ研究内容説明および症例集積の依頼および実際の症例集積などを予定するもコロナ禍で移動が制限され、研究の進捗状況に関する打ち合わせなどもコロナ禍での移動制限のため、メール等での打ち合わせとなった。また本年度に予定していた画像解析用MATLABのセットアップや研究内容打ち合わせも担当者とweb面談やメールでのやり取りなどで充分実際の操作や本研究で必要な機能の有無が吟味できず、導入が出来なかった。また国内外での学会がwebでの開催もしくは不参加となったため、旅費の使用が少なかった。また関連病院病理部とのやり取りが不十分なため、標本集積の遅れが生じ、免疫染色の費用(人件費、抗体購入費など)が少なかったため、次年度使用額が生じた。令和4年度にはコロナ感染状況がある程度改善することが見込まれ、本年度に出来なかったMATLABシステムの導入および学会発表および研究協力施設との対面打ち合わせを加速させ、未収集の病理標本集積、免疫染色を進めるために使用する予定である。またデータがまとまり次第、順次学会発表、英語論文化を進めるために使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 図書 (1件)
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