研究課題/領域番号 |
20K08137
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
石川 剛 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (20569305)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 非代償性肝硬変 / IVR治療 / 再生療法 |
研究実績の概要 |
本研究では、胃静脈瘤の治療法として本邦で開発された「バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)」の多種多様な効果に着目し、interventional radiologyと再生療法の融合による、肝再生促進・肝線維化抑制さらには生命予後延長を目指した、当施設独自の低侵襲かつ効率的な「非代償性肝硬変に対する新規治療戦略」を確立することを目的とする。 [研究1]BRTOが肝線維化に及ぼす影響についてMac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)に着目して解析・検討した。M2BPGiはBRTOによって有意に低下し、M2BPGi低下群と上昇群を比較すると、低下群において門脈血流量の有意な増加と窒素酸化物濃度の有意な上昇が確認された。また多変量解析の結果、M2BPGi低下を規定する独立因子として術前門脈径/脾静脈径比が抽出された。BRTOによるM2BPGiの低下は術前の門脈-脾静脈系血行動態に寄与し、BRTO後の門脈内皮に対するシェアストレス上昇が肝線維化抑制に関与していることが示唆された。 [研究2]BRTOが全身循環に及ぼす影響について下大静脈(IVC)径および脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値に着目して解析・検討した。BRTOによってIVCの長径・短径ともに有意に狭小化し、治療対象が胃静脈瘤症例より脳症症例の方がその変化がより顕著であった。またBNP値もBRTOによって有意に低下し、対象疾患別のサブ解析では脳症症例においてのみ統計学的に有意な低下が確認された。門脈-大循環シャント合併症例のなかでも特にシャント性脳症症例においては、容量負荷(前負荷)増大状態にあり、BRTOによってそれが有意に軽減することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
過去の実績よりBRTO件数を年間10-15例と見込んでいたが、令和2年度に12例、令和3年度に10例と、ほぼ予定通りの治療手技を完遂することが出来た。従って、[研究1]BRTOによる肝機能改善メカニズムの解明、[研究2]BRTOが全身循環・臓器連関に及ぼす影響の解明に関しては、想定通りの成果が得られたと自己評価する。 一方、非代償性肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法(ABMi療法)の件数を年間3-5症例と見込んでいたが、その対象症例が想定より少なかった(2例)。従って、[研究3]BRTOがABMi療法の治療効果に及ぼす影響の解明については、十分な研究成果が得られなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
[研究1]BRTOによる肝機能改善メカニズムの解明、[研究2]BRTOが全身循環・臓器連関に及ぼす影響の解明、いずれの研究課題に関しても概ね予定通りの成果が得られているので、さらなる統計解析を重ねて可及的速やかな論文報告を目指す。 一方、[研究3]BRTOがABMi療法の治療効果に及ぼす影響の解明に関しては、県内外の医療機関と連携を密にしてABMi療法の対象症例を確保することが先決である。その後は、計画通りに、BRTO後6ヶ月間の経過観察ののちにABMi療法を施行(BRTO先行ABMi療法)して、血清学的・組織学的に治療前後の経時的変化(術後1・3・6ヶ月)を解析する。また既存治療症例・ABMi療法単独症例をコントロール群として統計学的に比較・検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴って、国内および国際学会への参加を控えざるを得ず、研究打ち合わせもリモート会議に変更せざるを得なかったため、計上していた旅費を使用しなかった。 令和4年度も学会参加や研究打ち合わせが可能か否か判然としない状況ではあるが、[研究1]BRTOによる肝機能改善メカニズムの解明、[研究2]BRTOが全身循環・臓器連関に及ぼす影響の解明については、早急に論文化を図る(その他[英語論文校閲料・論文投稿料・印刷料]として使用予定)。 さらに[研究3]BRTOがABMi療法の治療効果に及ぼす影響の解明についても、対象症例を確保したのち、さらなるデータ集積・統計解析に努める(物品費として使用予定)。
|